2020年、パ・リーグに巻き起こった韋駄天選手ブーム。今年は更にヒートアップするかと思いきや、意外にも今ひとつ盛り上がりません。はて、どうしたことか?
と、いうことで、2021年前半の韋駄天たちにつき、まずは先に掲載した記事の、昨年大活躍6人衆(周東、和田、西川、金子、佐野、荻野)の状況、そして、新鮮な衝撃を与えた2人の快足ルーキについて振り返ってみようと思います。
- ① ソフトバンク周東佑京、ロッテ和田康士朗
- ②日本ハム西川遥輝、西武金子侑司
- ③オリックス佐野皓大(こうだい)
- ④ロッテ荻野貴司
- ⑤新人旋風!西武若林岳人・日本ハム五十幡亮汰
- まとめ(守備側が驚異的に対策してきた前半戦)
① ソフトバンク周東佑京、ロッテ和田康士朗
<元記事>
【周東】飽くなき向上心がちょっぴり空回り?
一昨年彗星のように現れるや、国際試合の晴れ舞台でも大活躍して一気に全国区の人気者。2020年には非力だったバッティングもメキメキ向上。今年はチーム内では完全にレギュラーだね!五輪も選ばれるかもね!………ぐらいな勢いだったはずなのに……。
前半戦はよもやの大失速となっちゃった周東。開幕からいつまで経っても低調な打撃成績。時々顔を出す守備の綻び。元々、完成度が高いチームの中で遅れをとるまいという気持ちが強い周東。だんだん動きがぎごちなくなり、自慢の足でもミスが重なり始めます。動きを読まれた盗塁死、焦りを見抜かれた牽制死、塁を欲張った走塁死などなどなど。勝敗に直結するミスを連発すると、我慢を重ねていた首脳陣もとうとう諦めての抹消。ファームに下がった早々には指の骨折をして、結局離脱することになりました。
いやはや。プロでレギュラー定着するってほんとに大変……。
どーしてこーなった?
「スタートが苦手なんで」「僕の代わりはいくらでもいる」。
思い返せば、活躍していた昨年でさえ、周東のインタビューには痛々しいほどの焦燥感がいつも漂っていた印象です。そして2021年開幕。絶対打たなきゃって気持ちは早々に壁にぶつかり、そこから、
「打撃で貢献できない〜」
「守備しっかりしなきゃ〜…なのにエラーで足引っ張った…」
「だから…塁に出たら絶対走らなきゃ」
「走るのだけは絶対成功しなきゃ」
と、「なきゃ」の自縄自縛が悪循環してしまったように見えました。
でも、なんだかんだで盗塁数はしっかり稼いでいて、側(はた)から見れば着実に足場を固めていたように見える。けれども、何せ求められるものが高いチームなので、少しのミスでも目立ってしまう。大胆かつ抜け目なさを求められるって、大変なプレッシャーなんでしょね。
周東離脱後も、チームの調子はなかなか上がらないまま折り返しとなりました。彼がいない間にセカンドには三森が台頭し、いずれはケガ離脱中の牧原も戻るでしょう。ますます厳しい競争になります。でも、やっぱり、周東が駆け回らないチームは活気がない。ケガも癒えて、エキジビジョンマッチではしっかり復帰。打力不足解消とまでは行かないけれど、外野にも挑戦しているので、活路は見出すことと思います。チームは彼を必要としていますからね。抹消とケガは一度気分を立て直すために天が与えたプレゼントってことで、バージョンアップ周東を待ちたいと思います。
【和田】コツコツ役目を全うしながらレベルアップ、意外に情緒安定派?
周東とは対照的に、去年とほぼ同様のレベルで、きっちりと足のスペシャリストという役割を果たせたのが和田。試合終盤の重要な局面でピンチランナーに出ると、果敢な盗塁や圧倒的な走りの速さで得点に結びつけ、ジョーカーっぷりは健在です。開幕当初は度々の牽制アウトがあり、癖とかが発覚したのかと心配しましたが、全然めげないですね。むしろ、失敗した後はより大胆になって、ディレード的なスタートを切ったり、二盗・三盗したりしてる。あと、牽制死はあっても盗塁死はめちゃ少ない。
昨年から「飄々として、ミスがエスカレートしないタイプだなあ」と感じてたんですよ。失敗後もプレーのペースが変わらない。取り返そうと焦る雰囲気があまり無いですね、和田って。とても冷静だなあと思う。
ロッテの外野は今年、マーティン、角中、荻野が万全な上、最近は藤原が目立ちまくるなど大激戦区。和田には中々打席が巡ってきません。前半戦でたった14打席しか貰えない中の3安打4四球出塁率4割は、すごく頑張った。守備固めに入っても絶対にカバーを怠らず、カメラに忍者のように映り込む姿が印象的。
出場が限られる中、期待される役目は期待以上に果たし、さほど期待されていなかった部分でも上々の結果を出す。もしや彼、シャイな見かけと裏腹で、想像以上に気持ちが強く、情緒が安定してるのかも?
前半戦、内に秘めた強さを感じさせた和田。エキジビジョンマッチでは、4打数4安打したり、打力も猛アピール。課題はまだ牽制死を喰らうことぐらいかな。観察力を磨いてほしい。でも、着実に存在感は高まっていて、レギュラー奪取も現実味を帯びています。優勝やCSを争うシビアな状況の中で、またクローズアップされる活躍をしてくれそう。期待しましょう。
②日本ハム西川遥輝、西武金子侑司
<元記事>
【西川】心も体も癒え切らなかった?
昨年オフ、念願のメジャー移籍が叶わず傷心を吐露していた西川。切り替えがうまく行かぬまま2021年に突入したと思ったら、コロナ罹患が追い討ちをかけ、心も体も立ち直れなかったようです。打率の低さに加えテンションも低いので、技量不足の後輩たちを鼓舞するリーダーシップを期待するファンにとっては物足りなさを感じさせ、歯痒い前半となりました。
打撃のみならず、走る方も今ひとつと感じさせたのは、盗塁死の多さに起因するかも。リーグ全体で今年は盗塁死が目立っており、ひとりだけの問題ではないのですが、西川の場合は昨年盗塁成功率が3位(.857)と高かった故に、あれれ?と思わされちゃう。
それでも、チーム内では走る方はやっぱり一番なのです。っていうか、リーグ内でもまだまだ上位。打率は低いけど四球を粘り、出塁率はそこそこ高い。打てない中でも何とかしよう、という気持ちの表れでしょう。
たぶん、今年は失敗が多い自覚があって、怖いと思うのです。そこを模索しながら走っている。盗塁が使命の選手として、懸命に走っている。低迷するチームの中、西川にしかできない役割だから。そして、若い者にセンターを譲ってのレフト守備でも、さすがの存在感を示しています。
厄年のようだった西川の前半戦。テンションの低さに惑わされてはいけません。あれが彼の味、スタイルですから。内心の負けん気は人一倍なので、ぜひ巻き返していただきたい。。エキジビジョンマッチの終盤では、固め打ちも盗塁も見せてます。去年も、出だしは悪かったのにいつの間にか3割キープし、盗塁では猛烈な追い上げを見せましたからね。後半になれば、いつものようにやってくれてるはずだと思う、西川です。
【金子】「変化」の正体を見極めようともがいている?
金子も、西川以上にキビしい前半戦となりました。今年はバッティングが不調過ぎて、出塁が少なくなっちゃっています。開幕頃に大活躍した新人の若林がケガをして、少しずつ出場が増えてきましたが、打率はまだまだで四球も少ない。元々バッティングが得意という方ではなかったし、あれやこれや積み重なって調整がうまく行かなかったのでしょうか。また、コロナ関連で、ゴシップ報道されたり濃厚接触懸念で隔離となったりもしたので、少なからず影響があったようにも感じます。
盗塁の方はというと、昨年も6人衆の中ではやや物足りない数字だったのですが、今年はさらに苦労しているように見えます。何といっても目立つのが失敗数です。塁に出た時は果敢に走っているけれど、盗塁死が多く、成功率が6割を切ってしまってます。「足にスランプは無い」なんて言葉をよく聞きますが、あるんだなあって金子を見ていると思います。かけっこの秒数が同じだから成功率も同じなんてことはない。盗塁ってそんなに単純じゃないんだろうな。関わる技術も年々刻々変化しているのだろうな。
金子はそういった変化と格闘しているように見えます。もちろん、年齢から来る体力の変化もあるかもしれないけど、それ以上に今年は、相手の技術の変化が大きそう。技を尽くしてのコンマ何秒の違いは、理屈でなく体にデータを蓄積しないとわからない。失敗しても失敗しても走ることで、相手が何を対処してきたのかを感じ取る。金子の盗塁企図数には、実践でしか掴めないのであろうプロの技術の難しさを感じます。
もし後半戦が進んだら、それこそデータ集めの試験は出来なくなるでしょう。シーズン前半で、出塁できた時にトライしておくことがとても大切になってくる。自分の感覚との差を確認できるから、リクエストの失敗も無駄ではないはず。
ファンの失望の溜め息を背中に浴びながら、成功率の下がった盗塁を繰り返す金子の姿に、スタはむしろ、プロの明日への道の開き方を見た気がしました。エキジビジョンマッチでも、まだ調子が上がる気配は見えません。でもきっと、後半戦にはこの経験が生かされる。彼の存在感が光る時が来る。そんな気がします。
③オリックス佐野皓大(こうだい)
<元記事>
チームは絶好調の中、再びプロの壁と格闘中
佐野も今期前半戦は不調組。一番の原因は、彼もバッティングです。4月には左右両打席でホームランを放ち(しかも右打席では特大)、すわ打撃開眼か!と期待させました。ところが、その後打率は下がる一方で1割台に低迷。かなり我慢して使ってもらっていたのですが、春先の新戦力見極め期間が終了すると5月には登録抹消。7月10日再登録したものの、20日には肋骨骨折で再度抹消となりました。彼も厄年状態です……。
佐野が下がった後のセンターには、元々は内野手だった福田が入り、猛打の1番打者として大活躍。チームの交流戦優勝と首位折り返しの原動力となって、完全にポジションを手中に収めました。ライトは杉本、レフトは吉田。外野の壁の厚さは監督が明言するほど。佐野は、もう一度、コツコツ実績を積み上げていかねばなりません。
前半戦の佐野のバッティングは、力の無いフライやゴロがとても目立ちました。タイミングの取り方や体の回転で打とうとしているのでしょう。でもやっぱり、もうちょっとパワーがあればと感じてしまいます。本人は自分の唯一無二の武器である走力に影響するので、体重を増やしたくないかもしれません。投手から転向した佐野は、既に一度、自分の売りだった武器を捨てている。残った大切な武器は、大事に大事にしたいことでしょう。でも、彼はもっと自分の武器を信じていいんじゃないかなあ。パワーアップの体重増加ぐらいで、チーム内の誰かに負けるような脚力じゃないんじゃないかなあ。
もちろん、今期はもうやる時間は無いけれど、オフにはパワー方向の挑戦してみてほしかったり。やってみてダメだったら戻せばいい、ぐらいの気持ちで。まあ、見ている方の勝手な気持ちですけれど。だってもったいないですもん、去年の活躍を思い出したら。骨折リタイアの前だって、塁に出さえすれば楽々盗塁していたし。彼が不調な今期、チームの盗塁は激減してるし。たまーに代走という形では、宝の持ち腐れ感が否めない。チャンスが来て代わったら、その後も使われて打席にも立つ、くらいには出場頻度が上がってほしい。
幸いにもケガからの復帰は早く、エキジビジョンマッチにも出場し、バッティングも春先よりはだいぶ鋭い当たりも出て来ました。今後は、少なくとも1軍には欠かせない戦力として帯同するかと思います。後半戦の大事なところで、彼の足の見せ場はきっと増えることでしょう。あの颯爽とした華やかな走りをたくさん見たい。周東や和田との競演も見たい。期待してます。
※なにせニュースが少ないので熱心な個人の方の最新動画を紹介させていただきます。ありがたいことです。
④ロッテ荻野貴司
<元記事>
さす荻様、文句無しの大活躍
ペナントレース前半戦、不振だった選手が多かった韋駄天6人衆の中で、一番活躍したのは「流石の荻野」でありました。常に3割キープで上位にいた打率は、最後に少し落ちたもののリーグ3位で折り返し。1番打者なのに長打率は4割強で、中軸打者並み。盗塁も、相変わらず若者に遜色なく、5位につけています。
衰え知らずのもうすぐ35歳。ひとつだけ気になることと言えば、金子と同様に盗塁死数がトップで、かなり多いこと。誘い出されての失敗も目にします。荻野と言えば、投手が投げる前に走り出す、時を止めるようなスタートが一番の魅力。春先から好調に見える彼でさえ、今年は走るのに苦労しているのです。
それでも、これまでのところ、彼は無事です。オールスターも、凄いダイビングキャッチを披露してファンの心臓を凍りつかせましたが、笑顔で乗り切りました。
エキジビジョンマッチ、出ればきっちり打っている。後半戦も、きっと涼しい顔で良い成績を挙げていくのでしょう。そして、盗塁死にめげることなく、走り続けてくれるでしょう。はい、我々の望みは、もうひとつしかないですね。
神様、お願い。彼を最後の最後まで完走させてあげてくださいっ!
祈りに力入りますね。ちっちゃい「っ」もビックリマークも付けますよ。ついでに、どうかその最後の最後がCSやシリーズの舞台でありますように。これも付け加えて祈ります。打てて守れてめちゃくちゃ速い、優しくて品が良くてイケオジな荻野。可能な限り長い時間見ていたいと願うのは、たぶんスタだけではないはずです。
⑤新人旋風!西武若林岳人・日本ハム五十幡亮汰
さて、昨年勃発したパ・リーグ韋駄天ブーム。今年の春、さらに波乱を巻き起こしそうな快足の若者が二人、颯爽と登場しました。大変残念なことに、両者とも大きなケガをして、早々にリタイアしてしまったのですが、若々しく果敢な走塁は閃光のようなインパクトを残しました。
【若林】チームを変えうる才能の強烈な閃き
開幕早々に新人選手の中から抜擢され、西武の1番打者として抜群の活躍をしていたのが若林岳人(わかばやし がくと)です。思い切りの良いバッティングもさることながら、出塁すればすぐに次の塁を狙う度胸が新人離れしていました。多くの人が、デビュー年の荻野の衝撃を思い出したことでしょう。若林の盗塁は、エレガントな荻野のそれとまた違い、ワイルドな豪快さがある。ミスを恐れずスタートを切り、ザッと砂を削る滑り込みが痛快でした。ケガをしたのは5月末。それが8月半ばとなっても、まだ彼が盗塁数のトップです。
盗塁王も囁かれ始めた矢先に、普通の守備の中で発生した彼の大ケガにショックを受けたのは、西武ファンだけでは無いと思います。前十字靭帯断裂と聞いて予後も心配になりますが、パフォーマンスを取り戻しているスポーツ選手はたくさんいます。しっかり治療して、またあのスリリングなプレーを見せてくれる。そう信じて待ちましょう。
【五十幡】伊達じゃなかった「サニブラウンに勝った男」
中学時代、100m走で、後に最速記録を出したサニブラウン選手に勝ったことがあるという経歴で、入団前からウワサの男になっていたのは日本ハムの新人、五十幡亮汰(いそばた りょうた)。とはいえ、打撃は非力で時間がかかるのでは?と思われていました。しかし、5月に1軍に登場すると、バッティングでも期待以上のしぶとさを見せます。そして、ウワサの走力。これが半端なかった。小柄な体を丸め、弾丸が飛んでいくようなスピードです。
インパクトが強すぎて、短期間にパテレが立て続けに動画アップしてるほど。なのに、彼もたちまちケガをしました。まことに、プロで毎日プレーするというのは過酷なことなのですね。活躍したのは1ヶ月。それでも、間違いなくプロで通用するプレーヤーだということを、疑う人はいないでしょう。ケガの重度は若林ほどではなかったけれど、大事なハムストリングの肉離れ。これも中々尾を引くケガです。焦らず治して後半は必ず戻り、残念な状況が続くチームに活気を与えてほしいものです。
まとめ(守備側が驚異的に対策してきた前半戦)
いかがでしたか? 2020年のパ・リーグの韋駄天ブーム、牽引した6選手の今期前半戦の闘いぶり。春先現れて輝いた2人のルーキーの活躍。色々思い出していただけたでしょうか?
今期開幕してみたら、走ってなんぼの勢いだった昨年とは打って代わり、失敗の数がめちゃめちゃ増えています。明らかに、投手の牽制やクイックモーション、捕手の送球スピードが上がっている。韋駄天選手の癖も徹底的に分析されている感じ。昨年のオフは短かったのに、プロの対策能力って凄いものです。
チームが不調な日本ハムと正捕手がケガしたロッテは今ひとつだった感じですが、他のチームはどこも盗塁対策が功を奏しているように見えます。特に西武は、森を中心とした連携が格段にアップしたように感じます。試合数自体がオリンピックで少ないこともあり、今年の盗塁数は昨年より激減しそうですね。しかし、今回取り上げた選手達は、長期的に走りで活躍できる能力と魅力を備えています。後半はまた、走る側が巻き返してくる可能性は十分。数は増えなくとも、大事な場面の盗塁や走塁が勝負を分けて来そうです。目が離せませんね。
この韋駄天選手ウォッチング、また定期的に書いていきます。お楽しみに。