2022年度パ・リーグベスト9選手の1年振返り。長い戦いを彼らはどう乗り切ってきたのでしょう?。捕手は2年ぶりの選出、ソフトバンク・甲斐拓也です。
甲斐拓也(ソフトバンク・捕手)
他受賞:Gグラブ賞
総評
2年ぶりの受賞です。でも表彰式で笑顔が無かったという甲斐。打撃成績が過去一悪かった、誇っていた守備も各部門でトップに立てなかった、など個人成績として不本意なところが多かったのです。それでもダントツの得票数だったのは、やはり兼任捕手体制をとるチームがほとんどだった中、同率首位という強豪チームの扇の要をほぼひとりで牽引した、という実績が大きいのでしょう。
まあ正直申しますと、スタも彼のベスト9は微妙だなあと感じました。投手の球速や球種が非常に進化した近年は捕手の負担増で兼任チームの方が多くなっているという現状を、投票する記者も踏まえた上で新しい基準で考えていってほしいとは思う。とはいえ今はまだ、ほとんどの試合を任されてこそ正捕手という価値観が、投票者の中では主流なわけです。その基準を考慮すれば、打率ほか成績関わりなく甲斐、という選択になった結果も理解はできる。
本人だって気分落ちて苦しかったと思うのですよ。去年1年試合開催方法が異例な形だったのに、今年は延長もある通常方式。体力のペースも掴みにくかったことでしょう。そこを毎日切り替えて投手を引っ張るわけですから、むしろ調子のいい年以上に頑張ったと言えるかもしれません。投手陣もなかなか安定せず、若手のお試し登板も多かった。甲斐は彼らをほぼひとりで支えて優勝争いを続けたました。底力を示したと思います。
【笑顔なし…】
— 鷹フル(ホークス専門メディア) (@takafullc2) 2022年11月25日
ベストナインを受賞した #甲斐拓也 捕手。
受賞会見では笑顔はなく、終始固い表情で反省ばかりが口を突いていました…#sbhawks #鷹フルhttps://t.co/4YY4UHDImr
打撃成績概要
3、4月頃絶不調のスタート。5月に持ち直したかに見えて6月がまた不調。しかもコロナ離脱が入ります。その休みでの調整が功を奏したか、7月は高打率を残しました。しかし、8月からまた急激に調子を落とし、そのまま浮上できずに終わります。これを見るとやはり疲労の蓄積も関係がありそう。疲れ切る前にコンディションを整えられるともっとちゃんと打てる打力はあるよね、って感じさせます。データは下記引用の個人データサイト「データで楽しむプロ野球」さんを参考にします。
■資料1:2022年シーズン成績詳細
※「データで楽しむプロ野球」より
■資料2:2022年シーズン全打席成績
※「データで楽しむプロ野球」より
■資料3:2022年シーズン対戦成績(対投手)
※「データで楽しむプロ野球」より
パの中での投手別対戦成績(資料3)を見ると、球に力のあるエースクラスの先発がほとんど打てなかった感じ。抑え系投手も同様に見えます。緩急型は捉えている数字が出ていますね。カウント別イニング別という項目で終盤のイニングの打率は少し上がっているんです。負けパターンの中継ぎ投手などの時にはある程度打てていたんじゃないかなって推測します。
パの投手はここ2、3年で球速や球威がぐんと向上しています。世代交代も重なっている打者の方は、投手の進化についていくのが大変です。今年は特に打者は苦労しました。甲斐は威力を増す投手に対応しようとしてフォーム改造などをした結果、なおさら混乱してしまったのかもしれませんね。
守備成績概要
NPBサイトのリーグリーダーズ守備部門と個人守備成績のリンクを貼ります。守備率と盗塁阻止率はパ・リーグ2位、失策数6で森、宇佐見と同数で一番多くなっています。捕逸は3でした。盗塁阻止率は彼にしては低い。でもこの数字は投手のクイックモーションの上手さなども絡みます。今年は1、3塁でのWスチール企図も増え、あえて送球しないケースも多かったと思います。セカンド送球のスピードでは、相変わらずさすがの肩を見せています。
<2022NPBパ・リーグリーグリーダーズ守備部門>
https://npb.jp/bis/2022/stats/llf_p.html
<2022NPBパ・リーグ個人守備成績>
https://npb.jp/bis/2022/stats/fld_p.html
春季キャンプ
地元メディアが多いソフトバンクなので、甲斐の露出も新春から盛り沢山。自主トレを行う地元大分では市町との対談があるほど。今年の自主トレは当初公開したのですが、その後九州他地区でのソフトバンク選手達のコロナ禍が続いて公開中止になったようです。そのまま順調に過ごしてキャンプ・インとなり、宮崎入りしました。
キャンプの課題はひたすらバッティング。なんといっても話題だったのは城島アドバイザーによるつきっきりの特訓でした。この頃は手応えを見せていたのですが……。
開幕〜前半戦
開幕戦からもちろんスタメンマスクの甲斐。ところが、特訓してきた打撃の方がさっぱりです。今年前半はリーグ全体でびっくりするほど打者が低迷したのですが、彼は特に不調が目立つ選手のひとりでした。4月末、試合後に特打を決行しています。ベテラン選手としては異例。それぐらい危機感があったのでしょう。
ゴールデンウィーク頃にチームは打線が大爆発して急上昇。5月末には首位浮上します。そしてソフトバンクはその後、ずっと優勝争いの位置をキープしていきます。出足で躓いていた甲斐も、特打の成果か5月は7試合連続安打するなど大活躍。最終的に月間で3割近く打って、チームの勢いに貢献しました。キャンプでの特訓の効果がやっと出たかな?。そんな雰囲気もあったのです。
ところが好事魔多し。自主トレ時からコロナ禍に見舞われていたソフトバンク。甲斐もとうとう6月末に感染してしまいます。その直前に先発を外れてそのまま出場せず、連続出場が途切れていました。もしかしたら、もう体調がすぐれなかったのかもしれませんね。
このコロナ欠場の時はクラスター状態でチームも一時活動を停止する状況。その後の甲斐の症状等は不明ですが、10日後には練習開始、さらにその10日後の7月16日に1軍復帰となります。練習復帰の際の藤本監督の言葉もなかなか厳しいのですが、それに応えるように復帰後すぐにタイムリーを放った辺りはさすがの叩き上げど根性。
また、甲斐が休んでいる間のチームでは、若手の渡邉陸を起用して大活躍するなどの副産物がありました。他にも「筑後ホークス」と称された若手達が躍動しましたね。
コロナがむしろリフレッシュと調整になったのか、7月は出場試合数こそ少ないものの、打率3割超えの絶好調となります。けれど後日談で、この時期に監督に叱られていたというエピソードが出てきました。やっと復帰して調子も上がったタイミング。信頼されているからこそなのでしょう。それは理解しながらも、今年の甲斐はよく藤本監督の口に上り、「チーム背負ってるよね……」と感じさせるエピソードが多かったなあ。しんどかったと思います。
オールスターゲームは選出されませんでした。コロナから復帰して結構無理も重ねていただろうから、いい休暇になるかと思われました。
後半戦
8月に入ると打率はまた急降下します。中旬には脇腹を痛めて欠場もしています。前半戦の疲れが一気に出たかもしれません。夏の疲れって後から来ますよね〜。また、順位争いも熾烈になってきて、自分のことまで頭が回らないということもあったかも。
9月も状態はさほど変わらず、最終盤の連戦時には春から続いた監督の叱咤もほぼほぼ精神論の悲壮感が漂いました😅。その効果か、翌日には今季初ホームランを放っています。上からの叱咤に何クソと反応して結果を出すところが、育成からJAPANまで這い上がった彼の真骨頂。
full-count.jp
とはいえ体はかなりボロボロで、気力だけでやってる印象でした。そんな状態でも頑張り続け、チームもマジック1となって優勝トロフィーに指がかかります。前日の西武戦では、山川に逆転サヨナラホームランを打たれ泣き崩れた2番手捕手海野の肩を抱いて慰めた甲斐。最終戦に優勝を賭けてマスクを被り、やはり痛恨の逆転弾をくらい、さらに追加点も奪われて敗戦。同率首位なのに直接対決の差でオリックスに最終日逆転で優勝をさらわれました。
試合中も試合後も口を真一文字に結んだだけで悔しさを露わにしなかった甲斐。その抑えた表情からは、むしろ彼の無念の思いが強く伝わってきたような気がします。後日談で、逆転弾を打たれて落ち込む泉を励ました話が伝わりました。自身も心無い言葉に多く傷ついてきた苦労人。思いやりが胸に沁みます。
ポストシーズン
こうして迎えた西武とのCS(クライマックスシリーズ)の1stステージ。リーグ戦最終日から少し間があき、甲斐も気分を入れ直したり調整したりがちゃんとできたようです。第2戦では2安打2犠打2打点と大活躍。スイープでの勝ち抜きに貢献しました。続くファイナルステージは千賀登板での勝利ゲームで2安打するなど打率 は273.。しかし、トータルではオリックスの勢いを止めきれず、ここでも後塵を拝すこととなりました。
その後は栗山監督率いるJAPANの練習試合に招集されます。成績不振とはいえ、国際試合の経験が豊富なキャッチャー。去年の五輪では勝負強さも見せ、日本に金メダルをもたらしたのです。いざとなったら頼りになる選手、という評価は翻るものではないですね。基本的にはもうメンバー入りは確実な選手だと思います。
まとめ
2022年度パ・リーグのベスト9捕手、ソフトバンクの甲斐拓也。成績的に、今年は非常にしんどい年でした。並の人間ならベンチに下げてくれた方が楽だと思えるくらいかもしれません。でも、NPBアワードの時、試合に出続けて勝っていきたい、とコメントしています。どんな状況でも休まないこと。それが彼の矜持です。
球団も近年は彼に頼りきり。でも、そんなチームが先日、FAで他球団のレギュラークラスの捕手・嶺井を獲得しました。他球団が、特に優勝したオリックスが出した捕手併用効果からの影響を感じざるを得ません。もちろん一番の目的は甲斐を休ませながら使うこと。しかし、彼の打撃が今年レベルに不調なら、来年のチームはどんどん嶺井を起用しそうです。さらには、海野だってもっと使う余裕が出てきそう。
おそらく甲斐は、来年本気で競争に臨むことになります。さて、これだけ焚き付けられてどんな頑張りを見せるのか。目が離せませんね。逆境に強い叩き上げの雑草選手、甲斐の来年はスリリング。楽しみです。