フィールド オブ パリーグ           -パ主義野球ブログ-

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【8月月間MVP】宮城くんのビルドゥングスロマン始まる【少年期から青年期へ】

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 先日8月の月間MVPが発表され、パ・リーグの投手部門はオリックスの宮城大弥が去年の8月に続く自身2度目の受賞となりました。完封含む3勝で防御率1.30。8月は自分の誕生月でもあります。真夏&記念月での連続受賞は、彼の体力と運の強靭さを印象づけますね。

※参考引用2023.9.10付け『スポーツナビ』プロ野球内
宮城大弥選手データより8月の成績詳細(随時消失のためURL無し)

 

 

 さて、そんな大活躍をしていながらも、今年の宮城くんは定期的に崩れる日があります。早い回から手の施しようがない大崩れになった時もありました。でも、彼自体が不安定で脆いという感じはさほどしません。というのも、その他の登板ではほとんどがいい投球だし、不調はすぐに修正して抜群の内容に持ち直せているからです。

 シーズン初めこそ突然崩れた時にハラハラしたけれど、すぐに立て直す姿を何度か見せられた今は、多少不調な日があっても「ま、次は大丈夫よ」と思える。防御率が悪化した7月を乗り越え、翌月に月間MVP受賞したのは象徴的な事柄です。今年の彼は、技術・体力・メンタルの全ての面で、そう簡単にオロオロ迷うことはなさそうなのです。

 タフになりましたよねー。いや、もちろん彼は10代の頃からタフだったのですが。でも去年まではしばしば、「大丈夫かなあ、宮城くん……」と心配になる繊細さが顔を覗かせていましたものね。それが、リーグ2連覇から日本一、WBCで世界一、という急上昇を体験する中ですっかり自信をつけ、ひと皮剥けた感じです。

 ひと皮剥けて顔を覗かせて来たのは、お兄ちゃんキャラかもしれない、とスタは思ったりします。19歳の若さでローテーションに入って一躍注目されてからというもの、チーム内はもちろん、どこに行っても愛され大事にされキャラ。永遠の末っ子的な存在だったのですが、今年は雰囲気に大人っぽさが出て来たのです。

 元々は、苦労の中でご家族を助けてきたしっかり者の長兄です。今年、実の妹さんが芸能界にスカウトされてデビューした際の宮城くんのコメントがとてもお兄さんらしくて、ああそうだったと再認識しました。

 さらにチームでは、先発陣に山下舜平大(しゅんぺいた)という才能豊かな弟分が上がってきて、いつも一緒に可愛がっています。身近に素晴らしい年下が入ったことで、選手としても、彼のお兄ちゃん魂が頭をもたげてきたに違いない。

 負けてられないな。下の子が憧れたり尊敬したりできるお兄ちゃんでいたいな。 

 そんな宮城くんに、もうチームの末っ子ではない、背中を見られる存在だ、という具体的自覚が芽生えた瞬間を感じたニュースがありました。開幕から好調だったのに初のエスコン日本ハム戦で早々とKOされてしまった時に、バッテリーを組んだ森友哉に諭されたという記事です。

 その試合を、スタは現地観戦していました。宮城くんは立ち上がりから制球に苦しんで、2回には2四死球5安打5失点。プロ入り最短降板となってしまいました。交代してベンチに下がってからも、落ち込んだ様子の彼に捕手陣が寄り添う姿を見たのです。

 

 彼がつまずいた時、先輩たちに優しく見守られる姿は見慣れた光景。ただ、この後で伝わったニュースでは、FA移籍で今年からオリ捕手陣に加わった森の言葉が宮城くんをハッとさせたというのです。記事を読むと確かに、やんちゃキャラの先輩捕手が愛されキャラ後輩へ向けた言葉のニュアンスに新鮮みがありました。

 ”悔しいのは分かるけど、投手は主役なんだ。野手は見ているよ。やるべきことをやろう” と言われたのだそうです。この言葉の何が新鮮かというと、他者の目を意識することを指摘している点です。

baseballking.jp

 

 宮城くんの過去を思い返してみると、1軍で活躍始めた頃に、同じように早々と崩れて捕手に言葉をかけられたシーンがありました。

 仲良しライバルの佐々木朗希との初対戦の試合です。この試合では初回から打ち込まれ、2回、3回も失点する状態。その味方攻撃中のキャッチボール中に、バッテリーを組んでいた捕手の伏見寅威が宮城くんの肩を抱きながら声を掛けました。

 その時掛けられ言葉について宮城くんがコメントした記事が現在は消えてしまって見つからないのですが、たしか「こういう時もある。グラウンドにいる間はやれることことやろう」といった内容を言われていたはず。その声かけ後には少し立ち直り、無失点投球をしました。

 比べてみると、寅威の言葉と友哉の言葉、ほぼ同じことを言っていますよね。ただ、少し視点が変わっている。

 寅威の言葉は宮城くんの内側視点。調子の波があること、たった今不調の波に落ちてしまっていることを受け入れる。その上で "やれること" があるのだよ、と教えています。突然エアポケットに落ちることにまだ不慣れな若者に、自分を保つ大事さを伝えた感じ。

 そして友哉の言葉は外側視点。主役は舞台の中心。仲間たちは舞台を完結させようと、いつも主役の背中を追っている。セリフを少々しくじったらもう投げやりになり、後のセリフが言えなくなる主役だったらその舞台はどうなるか。周りの役者は先に進むために主役の姿から目を離さない。主役には、自分の辛さはひとまず置いて、周りが次へと動けるように "やるべきこと” があるのだよ。

 このふたりの捕手の言葉は、絶妙なタイミングで最適なキャラクターの人物から宮城くんに掛けられたなあと思いました。

 最初の寅威は選手たちから「ママ」と呼ばれる保護者的キャラ。ひと回り近く年下の利発な少年の才能を潰さぬようさりげなく気遣いながら、難所を乗り越える手伝いをしてくれました。宮城くんにとって、このコンビの3年間は小説でいうとジュブナイル。寅威はジュブナイルに欠かせない少年主人公を見守り助ける大人役。あの日肩を抱きながら、経験も浅く対処方法を見失った宮城少年に、暗闇の中でも自分を取り戻せることを伝えました。

 その寅威がFAで去った後、同じくFAでオリックスに移籍してきた友哉はもっと同年代友人感覚のキャラです。オリックスには友哉と同い年の捕手のケンケン(若月健矢)がいますが、去年私生活で父親になったケンケンはファンには「パパ」と呼ばれたり、どちらかと言えば寅威方向の見守り保護者的キャラ。というか、宮城くんはこれまでずっと、大人で優しい先輩たちに囲まれ、保護者目線で見守られて育ってきたのです。

 そこに入ってきたやんちゃ兄貴友哉は、宮城くんの中にちょっと残る未熟なところを、家族的な見守りモードではなく同年代仲間モードで指摘できるキャラ。今まで「大変だけど頑張ろうね、気をつけようね」だった宮城くんへの要求の雰囲気が、友哉では「カッコ悪いぜ、直せよ、直せるだろ」に変わった感じ。

 体力と技術が高まり自立心がムクムクと頭をもたげて来ていた宮城くんにとって、これが良い刺激だったように見えます。

 調子が悪い時にできることもやらずに、「どうしたの?大丈夫かな?」って周りを心配させるようじゃダメだな。失投や不調なんて一過性で、すぐに元に戻せる選手にならなくちゃ。仲間が「こいつは大丈夫」と信じられる頼もしい主役にならなきゃな。

 やんちゃ兄貴友哉の言葉で、自分はもう既に「やるべきことができる選手、できなきゃいけない選手」なのだという自覚を持ったに違いない宮城くん。去年までジュブナイルだった彼の物語は、今年になってビルドゥングスロマンの段階に入りました。選手としての少年期から青年期へ。これからどんどん完成度が高まるでしょう。

 もちろん、彼の愛嬌いっぱいの振舞いやウィットに富んだ受応えは変わらぬままでいるでしょう。それでも既に、随分言動に落ち着きが出てきた気もします。先日の、仲良しライバルろーたん(佐々木朗希)との4度目の対戦も、そんな様子が伺えました。

 1安打無失点と好投して勝利投手になった宮城くん。前日ノーノーした由伸パイセン(山本)に煽られ、ロッテファンはカリカリしている中でのヒーローインタビュー。それとなく触れてくるインタビュアーの言葉をさらりと交わしつつ上手に話をまとめ、長いペナントレースの1シーンに一喜一憂せず、まだある先を見据えているクールさが伝わってきました。

 彼はどんどんしっかり者のお兄ちゃんキャラを確立し、ファンはこれから「ああ宮城くん、大人になったねえ」と目を細めることが増えていくでしょう。そうして、いつの間にかチームの中で押しも押されもせぬ大黒柱になった姿を見る度に、少年期の彼を思い出しては感慨に耽るに違いありません。

 入ってきた頃の宮城くんは本当にお茶目で賢くて、みんなに愛される末っ子だったねえ。チームを向上心溢れながらも明るく和気藹々という雰囲気に変えた、かすがいみたいな子だったよね。それが大人っぽくなってきたのはいつだったっけ?。

 3連覇の時だったよ、とスタは思い出すことができそうです。始まったばかりの彼のビルドゥングスロマン。これからも長い間楽しませてもらえるに違いない物語です。