まだキャンプに入る前のこと。有名野球ユーチューブの「トクさんTV」が、去年に続いて西武・源田の自主トレを訪問し、守備の動画をアップしてくださいました。それが今年も面白く、何度も見たくなる内容です。
その中で、源田の究極グラブトスにみんなが挑戦、みたいな部分がありました。ご存知のようにグラブトスは、走り込んで行ってグローブでボールをキャッチすると持ち替えることなくグローブから素早く相手にトスします。それがもう、源田の場合は「キャッチ」ですらない、という点が見どころ。
グローブの指を閉じて掴む動作がありません。スコップか何かで受け止めて投げてるみたい。キャンプに入っての守備練習でもそのグラブトスがパテレに映り、切り取りでクローズアップされたりしています。
彼のこの「グローブを閉じないグラブトス」を見ると、バレーボールをやっていたスタは奇妙な懐かしさを覚えるんですよ。「ああ、これはバレーボールだよな……」って感じちゃう。ボールを掴むための道具を使っているスポーツが、ボールを掴んだら反則になるバレーボールを思い出させるとはこれ如何に。
トクさんTVの動画の中では、源田が「方向を変える、みたいな」とプレーの感覚を説明。これがまさにバレーボール感覚。バレーはワンタッチでボールのベクトルを変えるというスポーツなので、源田の言葉を聞いて、感覚がほぼ同じだろうなと思いました。
バレーの中でもレシーブは、サーブやスパイクなど正面から打たれたボールを、多少の角度はあるものの、基本前方に返します。ショートの源田がセカンドに放るグラブトスに近いのはセッターが上げるトス。正面から飛んでくるボールを横方向にベクトルを変え、しかも勢いを消して打ちやすい(野球なら捕りやすい)球筋で飛ばさないといけません。
スタもちょっとだけ、なんちゃってセッターをやったことがあります。この、正面から飛んでくるボールを横方向にベクトル変えるのがなかなか簡単じゃないんです。特にレシーバーからのボールに勢いが残っている時はそれに負け、体がネットタッチしそうになるしボールをコントロールできません。
ビュンと飛んでくる球を自分の思う所にベクトルを変えるには、自分が触る瞬間にボールを「止める」必要があります。H・G・ウエルズのジュニア小説や手塚治虫のマンガに時間を止めるテーマがあるけど、もちろんそんなSFめいた話じゃありません。ボールのスピードに自分の感覚を合わせる慣れ方の問題です。
ほら、動いてる乗り物に乗る時、ちょっと並走したりすると「今乗れる!」ってタイミングが来るじゃないですか。揺れてるボートや箱ブランコに乗る時も、じっと見てるとポンと乗れそうに思える瞬間があるじゃないですか。そういう目と頭の調整能力というか、対象物の動きを「止める」感覚が、飛んでくるボールを扱う時にも効くんですよね。
バレーでトスを上げる時で言うと、ボールが肩口の斜め前くらいにある時からおでこの前で上げるまでのその一瞬でスピード感を合わせる感じ。その感覚がピタッと合った時はほんとにボールに重さが無くなります。フワッと指で押すだけで、自分の上げたい方向にスーッとボールが飛んでいくのがすごい快感。瞬間的にボールと自分の周りが無重力になったかと思うような感じでしたから。
まあスタは下手っぴだったので、そんな快感は年に2回くらいしか味わえなかったんですけどね。複雑な変化攻撃を繰り出す達人セッターは、たぶん、ハードなレシーブが返ってこようが自分の体制が悪かろうが、いつも自分の周りを無重力にしてトスを上げてるに違いありません。
きっと、源田も達人セッターと同じです。ボールに触る瞬間に、彼の中ではボールが止まっているんです。だから、あんな石のように硬いボールが凄い勢いで弾んできても、彼が触るときには瞬間無重力でゴム風船みたいに軽いんですよ、たぶん。ちょいっとグローブで触れば、ひょいっと方向が変わっちゃう。
もしかしたら、チリ取りとか洗い物用手袋とか軍手とかでもやれちゃうんじゃないのかな。いつか見たいぞ、源ちゃんのチリ取りグラブトス。
一般人でもそういう感覚を感じられる時はあるけれど、プロのレベルでいつでもどんな状況でもあたふたせず安定してやってのけられるのが源田。そして、その間合いの妙を周囲に感じさせられるところがたまらん所以。
今年も早々から、名人芸を堪能させてくれる源ちゃんなのでした。
※トクさんTV(記事内容部分は3分頃から)
※パ・リーグTV切り取り動画
※パ・リーグTV(記事内容部分は28秒頃から)