🔷水谷瞬と宮崎一樹
日本ハムの名護キャンプ見学記。前回の内野守備練習ウォッチングに続き、外野守備のウォッチングです。キャンプはやっぱり内野の練習に目が行きがちだし、物理的な距離としても、意外と外野が遠いのです。そんな中で、外野練習の時にふと気づいたのが2人の若手外野手の守備の構え方の違いでした。
ひとりはソフトバンクから現役ドラフトで移籍してきた水谷瞬。キャンプは2軍の国頭(くにがみ)スタートでしたが、紅白戦のため、早くも3日に名護に来ていたのです。4日の紅白戦ではライトへの流し打ちホームランを放ち、身体能力とパワフルなバッティングで目立ちまくり、その後1軍合流となりました。
もうひとりはルーキーの宮崎一樹。ドラフト3位。とにかく足が速くて強肩という、やっぱり抜群の身体能力が魅力の選手。大卒でもう体もできていることもあるのでしょう、ドラフト2位の進藤(しんとう)捕手と共にキャンプは一軍スタート。練習試合でヒットも打っていましたが、途中、国頭組で猛アピールしていた水谷と入れ替わりとなります。
<水谷資料>
<宮崎資料>
🔷両者の外野守備構えの違い
外野守備での両者の構え方の違いに気づいたのは、3日の練習時のことです。水谷がライト、宮崎がセンターを守っていました。
構えのどこが違うと感じたかというと、打者が打つ瞬間に守備者がタイミングを取るステップの部分です。ふっ!と軽く踏み込んで重心をフラットにし、左右どちらにでもすぐ足を出せるようにする準備の動き。
球技では大抵この瞬間があります。テニスの練習は特にそのステップをクローズアップして「スプリットステップ」と呼んでいます。色々調べると、野球の守備でもそう呼んでいるものを最近多く見るので、野球用語としても段々浸透してきているかも。スタがやってたバレーボールのレシーブは瞬間が短すぎるのでスプリットほど明確にはなりませんが、やっぱり一瞬低くなったりして重心をフラットにしていました。お相撲でいうと立ち合いの手をつく瞬間みたいな感じ。
水谷は、このスプリットステップを1球ごとにきっちり真面目にやっていました。打者の方向を見据え、膝やお腹の曲げ方も内野手のように深く曲げます。明らかに打ってこないタイミングでもその動きをサボることがなかったです。
一方の宮崎はというと、スプリットステップというような動きがほとんどありませんでした。ゆらゆらとゆっくり足踏みしてる感じ。水谷に較べると突っ立ち気味に見えるほど、「構え」というほどの「型」がない感じ。あえていうなら、足踏みが少しだけ大股になる瞬間がステップと言えばステップだったのかな。
2人の違いを見た時に、スタはこんな風に思っていました。
「水谷くんはやっぱりキホンを叩き込まれてるな。さすがソフトバンク育ちだな」
「宮崎くんは感覚でこなしちゃうんだな。センスの塊っていうことだろな」
うん、どちらかと言えば、水谷の守備にプロとしての年季を見て感心していたかも。練習の1球1球に同じ形で準備する集中力を意識している、と思ったのです。宮崎のほうには、能力でサラッとこなせてしまう淡白さも感じていたような気もします。でも、それが素人の浅いところだった模様。
翌日の終わりにニュースで出た新庄監督のコメントが、偶然にも彼らの守備について言及していました。そして、ど素人スタの印象とは真逆の内容がありました。
<屈曲が深い水谷のスプリットステップ>
<足踏みだけ?みたいな宮崎のステップ>
🔷新庄監督の両者守備へのコメント
スタが外野守備構えのステップの踏み方がそれぞれ違うな、と感じた翌日、偶然にも当該選手たちの守備についてコメントした新庄監督のインタビュー記事が出ました。詳しい記事のほうは有料なので、内容をかいつまんでのご紹介をさせていただきます。水谷にはダメ出しがあり、宮崎はフットワークを褒めています。
<水谷の守備>
⚫️ライン際のボールを追った時、捕れるはずのボールを(追いつけずに)ファウルにしてしまうような守備
⚫️動き出しが(打者の)インパクトの瞬間なのがダメ、そのタイミングでは遅過ぎる
<宮崎の守備>
⚫️投球カウントにより、自分で考えて守備位置を変えて備えている
※例:左打者で2ボール→右中間にグッと寄る
(ストライク狙い打ち引っ張りの可能性が高まることに対応?)
⚫️足の動かし方が一番うまい、僕(監督)に似てる
<↓コメント全紹介記事。有料だけど面白い>
<↓コメント一部紹介の記事>
そうなのか!。淡白に見えた宮崎の守備のほうが正解なんだ。そういえば、宮崎は左へ右へ、ライナーにも楽々追いついてたな。足が速いなあ、と思ってた。そして水谷は、セカンドとの間に落ちそうな緩いフライをとった時、確かに彼も足が速いはずなのに思ったよりギリギリで、あれ?ちょっと出足が遅いかな?って感じたな。
どこに差があるかと言えば、守備位置とスタートと足の運びがポイントらしい。まあカウントなどを考慮しての守備位置の取り方は、練習の時にはわかりづらいこと。
でも、スタが気づいた構えの違いは、スタートの良し悪しに対してかなり影響がある部分。特にスプリットステップは、相手のインパクトの瞬間に動くための備えなので、それを忠実にやってる水谷の動き出しが遅いのだとすれば、考え方の上で何か根本的なギャップが生じますよね。
ありがたいことに、そのギャップを埋める記事がまた数日後に出てきました。マルチプレーヤーとして外野も頑張る郡司に、新庄監督が守備を教えた時の教えです。これがまさに、水谷と宮崎の守備の構えの違いについての解説そのもの、って感じだったんですよ。
<引用:2/14付ニッカンスポーツ記事より>
マンツーマンで指導してくれたのは新庄監督だった。捕手や内野は低い姿勢で構える。だが外野で低く打球を待つと、力んでとっさに動けない。「脱力した方が1歩目が速く動けると。そして最初の3歩くらいは忍者のように行けと。サササって。今日のテーマは忍者走りで決定ですね」と、コツを伝授された。
「捕手や内野のように低い姿勢で構えて待つと、力んでとっさに動けない」。
ああこれ、まさに水谷のスプリットステップの話だわ〜、と思いました。そういえば、同じ内野手のスプリットステップでも守備位置によって構えの緊張感が変わってくる、という話、前にどこかであったな。そうそうあれだ。ショートの名手豪華大集合のユーチューブ!。
これ面白いから絶対見てほしい。この動画の中で、サードは強く速い打球が来るので低く構えるけど、ショートは360度動き回るから、もっとリラックスムードで高く構えてるっていう話があったんですよ。動画だと9分辺りから。たぶん、新庄監督の内野手と外野手の構えの違いは、このサードとショートの違いをもっと拡張して考える感じなんじゃないかなあと思うわけです。
それと、8分50秒頃に、大昔の練習では地面にグラブを付けるまで低く構えて踵を浮かせる姿勢を取らされたり、腰を掴まれて捕る時離すような練習をさせられた、という話が出てきます。これ、スタがやってたバレーボールのレシーブ練習。体勢を確認するのに床を中指で触ってから打球のコースに入って行く、なんてことやってましたねえ。
思い返せばスタの中では、この時の感覚が最善になっていたのかも。でも、そう言えば、テニスのスプリットステップはあんなに這いつくばるような姿勢を取ったりしませんね。考えてみれば、打たれてから拾うまでの時間が異様に短く床に落とせないバレーのタイミングと、バウンドさせていいテニスやら野球やらのタイミングが同じわけがない。
競技自体の性質と同様に、内野と外野の守備も性質が変わる。あれだけ打球が飛んでくる時間や動く距離が違えば、違ってくるのは必然です。このショートの守備の動画を思い出したら、新庄監督が郡司に伝えた話と水谷の守備についてのダメ出しが結びつき、なんだか急に腑に落ちました。
ちなみに、郡司が構えをアドバイスされてる様子も動画になっています。この時新庄監督が教えているのは、宮崎みたいな特殊な足踏みではなく、ごくごくライトな両足スプリットステップに見えます。
実は、冒頭の3日の外野守備練習でレフトを郡(こおり)が守っていたのですが、彼がやっていた構えがこのオーソドックスな浅いスプリットステップでした。気になったのは水谷と宮崎の構えだったけど、参考のために郡の写真も撮ってあったので比較してみてください。
ついでに言うと、動画では宮崎が送球を教わっている場面もあります。彼はキャンプに入る前、送球を監督に教わりたい、というコメントを出していましたので、その願いも早々叶ったわけですね。
<軽いスプリットステップ後に着地した郡>
<送球を教わりたい宮崎の記事>
🔹若手2人の進化に期待!
さて、当初はふと軽い気持ちで比較した外野守備のウォッチング。意外に深いお話になりました。監督にダメ出しをされた水谷の守備も、きっと全部が悪いわけじゃないですね。何より、1球ごとに集中しよう、ちゃんと構えよう、と思って実践している姿勢ってめっちゃ偉いと思うんですよ。ちょっと形を変えるだけで済むところなはずなんですよ。
守備に関して彼は真面目過ぎるのかもしれないな、って思ったりもしました。移籍の時からの色々なインタビューを聞いても、意外に理路整然と慎重に言葉を選びながら話しています。見かけは華やかな要素がいっぱいな選手なのに、メンタルはすごく堅実タイプな感じ。そこら 辺が、守備の動きが少々固く重くなっちゃうことに影響してるかも?。
もしかしたら、これからはもう少し自分の身体能力に任せて、気楽に伸び伸び奔放に動いても面白いのかもしれません。新庄監督や稀哲コーチにライトな動き方のコツを教わって、おおらかでスケールの大きな動きを覚えていってくれたら、またひとり、ハムに華やかな守備を見せる外野手が増えそう。そんな気しませんか?。
宮崎のほうは、動きに関しては天性のセンスがあること間違いなしです。ルーキーが、メジャーでさえ守備を評価された新庄監督にキャンプ序盤で太鼓判を押されるなんて、そんなにあることじゃありません。
あとは自分で課題にした送球や、内野との連携、プロの強打者の打球への慣れなどの応用問題をどんどん身に付けて、本人が望む、ちまちましてない外野手に育っていってほしい。国頭組に入れ替わったのも、決して劣っているからではないですからね。
水谷と宮崎は入団年こそ違うものの、同じ2001年生まれ(水谷が早生まれで1学年上)。同じ年頃の2人の入れ替わりは、今年のハムの激しい競争の象徴のように見えました。
これから練習を重ね、若い2人がどう変わって行くのか。打撃だけでなく、守備の様子も見守って行きたい。ウォッチングの楽しみがまたひとつ増えたな、とほくそ笑んでいるスタであります。