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【名護キャンプ】新任・谷内コーチが守備練習の覇気を呼ぶ【日本ハム】

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🔷キャンプ内野守備練の活気の元は谷内コーチ

 

 日本ハムの名護キャンプに行ってきました。タピックスタジアムに着いたのは2月1日の午後3時頃。初夏のような良い天気。名護キャンプ見学で初めて初日から沖縄らしい海が見られました。もう全体練習は終わる時間だったので、タピックスタジアムの左手にあるサブグラウンドに向かいます。

 

 行われていたのは伏見寅威捕手の送球練習と、その横で今年から着任した谷内亮太内野守備走塁コーチによるノック。ノックを受けていたのは、二遊間を組むことが多い上川畑と奈良間。そして、捕手の清水と田宮(捕手は守備練習でサードをよく守る)。

 補助する森本稀哲外野守備走塁コーチの賑やかしをBGMに、本人はあまり声を発しない谷内コーチ。コツンコツンと響くノックの音がリズムを刻み、メトロノームに聞こえてきます。


 この後数日の滞在で、去年と大きく雰囲気が変わったと感じたものに、内野守備練習の活気がありました。去年はすごく静かでおとなしかった内野守備練習。新人や若手、あまり守備に自信が無い選手が主要メンバーで、どこか自信の無さが漂っていて、解説者にも指摘されるほどでした。

 去年までの担当で優しく丁寧な飯山コーチがつきっきりだったジェイ(野村佑希)の特守なども、基礎の基礎を手取り足取り教えている感じ。まあとにかく、内野守備練習全般的に、テンポとかリズムとかが感じられないのがもどかしかったのです。それが打って変わって、今年は練習開始と同時に元気いっぱいに声が飛び交う。覇気がある。見ていて嬉しくなりました。

 

 まずは何と言っても、個々の守備力が総体的に向上しました。取ったり投げたりで精一杯ということがなくなって、全員が連携を流れで捉えられるようになった感じがしますし、局面での判断の共通認識が徹底してきたようにも見えました。

 去年までの飯山コーチの根気良い教えが身についてきたこともあるでしょう。また、昨年エスコンのグラウンドの難しさで痛い目を見て、秋季練習を守備に特化して行った成果もあるかもしれません。さらには、誰もが下手すれば一軍が危ういぐらいに競争が激化していることも、良い刺激になっているのでしょう。

 そういった要因に加え、ほんの数日の滞在の中でスタがもうひとつ、「これは大きいなあ」と感じがことがありました。それが、谷内コーチの醸し出す雰囲気です。この新任コーチは選手達に慕われていて、言動も激しい感じは全然ありません。なのに、練習が始まると独特な緊張感を醸し出して、空気をピリリと締めてしまう。

 何が独特なのかなあと考えて、思い出されたのが冒頭のサブグラウンドでの特守。この時のノックの音がポイントでした。コツンコツンと響くメトロノームのような音が、谷内コーチの練習の雰囲気の厳しさを印象付ける音になりました。

 

 

🔷引退試合で見せていた鬼コーチの視線


 守備名人で鳴らした谷内コーチは、去年終盤に現役引退を発表しました。誰もが「え?、まだまだやれるでしょ?」と驚く中での引退でした。その通り、2023年9月27日の引退試合ではタイムリーヒットを放ち、セカンド、ショート、サード、ライトを華麗に守り、余力十分な引退であることを見せつけます。

 

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 で、この試合の時はまだ、引退後の去就については発表されていなかったんですよね。ヤクルトから移籍してきた彼は、自宅が関東にあってハムでは北海道に単身赴任。自宅から通いやすい職場に移る可能性も高いかと思われました。

 でも、引退試合の中継で映された彼の様子を見ていたスタは、「あ、やちやち(谷内コーチ※以下時々愛称で記載します)、もしやハムのコーチになるのかも?」って感じたのです。

 それは、交代してベンチに戻ってからのこと。彼ね、ベンチで全然余韻に浸ってなかったんですよね。一番前の一段高いイス(監督がよく座る)に腰掛けると、仲間の守備をじーっと見据えている。その表情がめっちゃ厳しかった。お別れとなるお友達を眺める感傷的な眼差しじゃなかった。

「……この眼差しはおかしいな?」
「もしやちょっぴりイラッときてる?」
「本当に最後ならこんな表情にならないよね?」
「……怪しいな、うん、これは絶対アヤしい……」

 この眼差しを見て、さてはハムにコーチで残るな、と思いました。もしパテレなど過去試合ビデオが見られる方はチェックしてみてください。ほんと、これから引退セレモニーする選手の表情じゃなかったですから。

 
 そうしてほぼ1ヶ月後の10月30日、彼のコーチ就任が正式に発表されます。ああやっぱり、と思ったので驚きは正直ありませんでした。彼のレベルなら仕事は引く手あまただろうに、ハムの後輩達を鍛える道を選んでくれたことが何よりありがたい。あの引退試合中の彼の視線に満ち満ちていた「目の前の若造達を上手くさせたい」という気持ちが本物だったことが嬉しい。

 我ながら予感が鋭かったな、と思うのは、ただコーチになりそうというだけじゃなく、眼差しの中に「鬼コーチ」の素質を見出していたところです。名護キャンプ見学の数日は、やちやちコーチの鬼っぷりをたっぷり拝むことができました。

 鬼と言っても全然暑苦しい所ないんですよね。イケメン&クールなプレーで名を馳せたやちやちのイメージ全然壊れない。でも、彼が守備職人になった理由が垣間見える鬼っぷりだったのです。

 
 

🔷職人肌の証のメトロノームノック


 歴代監督に信頼厚き守備名人だった谷内コーチ。その技量をどうやって後輩たちに受け継いでいくのか。本領発揮を見た気持ちになったのは、2月3日の全体練習後の特守でした。

 霧雨がそぼ降る中、グラウンドに立っているのは石井一成と加藤豪将。守備が上手い選手であってくれないと困る中堅どころです。たぶん、2人のキャンプ特守はこの日が初。アップや序盤はほどほどに始まったのか、スタが着いた時にはまだ選手に笑顔も見えたし、軽口なども出ていて余裕が見えました。

 

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 その後、セカンド付近に場所を移してのノックが始まります。そんなに速くもなく、転ばないで取れるくらいの打球です。こういうのが結構キツい。

 スタはバレーボールやっていたのですが、振り回しのレシーブ練習なんて転んじゃったほうが全然楽。転ばずに踏ん張って切り返すのは、ほんとにしんどい。特にバレーは、触って上にさえ上げれば誰かがカバーしてくれますからね。テニスやってわかりましたけど、切り返してボールを長い距離打ち返すとか投げるところまでするのはめちゃめちゃ体幹の力が必要ですね。2人のノックを見ていても、ああここで踏ん張るの辛そう〜ってなってきます。


 しかも、やちやち(谷内コーチ)が繰り出す打球、微妙に速くなったり緩くなったりしてるのに、打ってくるテンポは乱れない。

 コツン→捕る→投げる→戻る→コツン→捕る→投げる→戻る。

 捕る選手は、打球に合わせる中で感覚に一瞬の乱れが生じてる。でも、すぐに全体の動きのリズムに合わせないといけない。わかっちゃいるけど、気持ちも体も疲れてくるとテンポよくリズムが刻めなくなりますね。その結果、この「投げる」と「戻る」の間の矢印がちょっと間延びしそうになったりする。と、すかさずやちやちの声が飛んで来るわけです。

「止まらないで」
「次もう石井さんでーす」

 これ、間がせかせかするのもダメなんですよね。1日の若者達へのノックでは速くなることへの注意をしています。とにかくテンポが乱れると即座に注意。

 その注意の口調が冷めてるんですよ。とてもスポーツの特訓中とは思えない穏やかな声。良ければ良いと褒めるけれど、景気づけや威勢の良い盛り上げの叱咤は皆無。語尾に絶対「!」が付かない。なのに、めっちゃ圧が強い。

 他の日のキャンプ中継でやちやち特守が映った時、解説者が「この黙々とやる感じは辛い」と笑っていましたね。ノッカーが煽ってくれたら、それに応えたりして気分が上がるので乗り切って行けるけど、静かにやるほどしんどいことはない、と。

 何があっても一定の調子をキープする谷内コーチのきっちりぶりは、練習の区切りにも表れます。セカンド練習を終えて座り込む選手達とひとしきり話したり片付け物をしたりしていても、ショートの練習をするとなったら「はい、やるよ」とひと言言って、さっさと打撃位置に歩いていっちゃう。

 後ろ全く振り返りません。選手たちの疲れの余韻なんて、取り付く島もございません。どこまでもクールなやちやちコーチ。

 

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 かくして始まったショートでの次のノック。これが芸術の域の単調さでした。くるくる回るオートマタ(西洋からくり人形)の動きを味わう感じ。催眠効果で見入ってしまう感じ。

 横で稀哲がユーモアたっぷりに盛り上げようとして、「文句言ってる〜!」とか煽るけど、「文句言ってもやってくれればいいよー」と冷や水をぶっかけるやちやち。ちょっとテンポ崩れる度に秒数を追加しているけど、練習は秒って単位じゃなく、ずーーーーっとぐるぐるが続いていました。終わった時には、石井も加藤剛も口もきけないほどへっとへと。


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 野球の特守と言えば、飛び込んで這いつくばって泥まみれ、というイメージが浮かびがちだけど、この日谷内コーチがやっていたノックでは、選手のユニフォームがほとんど汚れていませんでした。印象に残るのは、ひたすら同じテンポで響いていたノック音。

 でも、この派手さや劇的な盛り上がりとは無縁な単調ノックを現役時代のやちやちはこなしてきたし、それが彼の守備の凄みだったんだろうなって感じました。本当は打撃が好き、という彼がこういう練習を続けるのは、どれほどの我慢と覚悟が必要だったことか。

 声とか感情の盛り上がりなど、勢いでボールを捌くわけではない。強い球が来ようと緩い球が来ようと、自分がちょっとミスをしようと疲れようと、全体的なリズムを乱さずテンポを守って行けること。それが職人の成せる一番の技なのだろうと思いました。

 「坦々と」という言葉が頭に浮かびます。精神的な面の「淡々と」ではなく、物理的なほう。何があっても無事に平凡に守備機会を過ごして行ける。その「坦々と」した様がプロの中のプロとして認められる最高の職人技なのでしょう。

 感情の起伏を抑え、我慢強さと体力を培うためのメトロノームノック。そのコツン、コツンという音に、職人技を受け継がせようとする谷内コーチの強い思いが込められている気がした、キャンプ序盤の特守でした。



🔷選手の内なる思いが湧き立たつ存在


 こんな風に、キャンプ初旬のやちやち鬼コーチは静かでクールでノックも地味め。こういう感じだと練習は重苦しくなりそうな気がします。でも、実際のハム内野守備練習は活気があって大盛り上がりで朗らかでした。不思議ですね。

 これはやっぱり、谷地コーチのキャラが生む空気なのかなあと思います。選手の時から、的確な観察力と包容力で後輩に慕われてきた兄貴分。学生時代のキャプテン経験豊富でリーダーシップもあるから、ビシビシと辛口なダメ出しができちゃう。頭が良くてそこにユーモアを纏わせられる。彼と後輩たちの関係についてはエピソードがたくさん出てきます。ちょっと有料記事が多いですがご紹介しながら話を進めましょう。

 去年の8月頃、娘の彼氏なら誰を選ぶかという企画記事があって、やちやちはハムの選手全員ダメ出し。比較的人気だったジェイ(野村佑希)については、「負のオーラを出す」とネガティブさについてダメ出ししてました。でも当のジェイは、不調だった時に辛口先輩と毎日一緒に球場に通い、その中で相談に乗ってもらったり励ましてもらったりしたことを財産に感じています。

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 表では毒舌タイプだけど後輩思いなところは最初の所属チームのヤクルト時代から有名で、てっと君(山田哲人)との関係の記事がありました。この2人についてはスタも一昨年松山自主トレに行った時に目撃しています。てっと君がとにかくやちやちから離れないんですよ。どんだけ愛されてるんだ、って感じでした。

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 ファイターズの今の内野陣も、ほとんどの選手がやちやち先輩のお世話になっていることでしょう。アドバイスを受けたり、励まされたり、心に沁みる言葉をたくさん貰っているに違いありません。さらには、彼らは先輩の奮闘努力する姿も目の当たりにしているはず。

 去年のやちやちは2軍で素晴らしい成績でした。それでも1軍から声は掛からない中、下記記事にあるように、後輩の視線も意識しながらひたむきに頑張っていました。その努力がいつ報われるのかとファンもやきもきしていたら、この記事から1ヶ月ほどで引退発表がありました。近くで見ていたチームメイトの受けた衝撃は、ファン以上だったと思います。 

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 きっと、このキャンプでノックを受けている内野手たちの胸の内は、尊敬してやまない先輩への思いでいっぱいでしょう。まだまだできるのに、言わば自分たち後進に道を譲った形の名手を前にして、向上心と意欲を見せなかったら男が廃るというものです。

 意地だって自ずと湧いて来るでしょう。目の前に立つ先輩は、どんなにキツい練習だってやってのけるに違いないし、自分が取り損なった球だってきっときっちり捌いてみせるに違いない。相手は今すぐにでも自分に代われる人。谷内コーチに冷めたトーンで「やって」と言われてできなかったら、グラウンドにいる全員が「あー、コーチならできるのにねー」と思うはず。現役選手、負けるわけにはいきません。

 こういった選手たちの思いがそのまま覇気となり、内野守備練習の活気を生んでいるような気がします。

 象徴的な選手に奈良間大己がいます。この張り切りボーイは、プロ2年目にして練習の声出しの主役です。景気付けだけではなく、注意喚起や仲間の好プレーへの賞賛も欠かしません。見学していて気づくのは、彼がしょっちゅう先輩コーチの名前を叫ぶこと。次は守備練習というタイミングになると「さぁ〜!ヤチコォォ〜〜チ!」って必ず叫んでる。練習中も、何かある度「ヤチコォォ〜〜チ!」。

 この奈良間は新人だった去年、一時期2軍落ちしています。その時にやちやち先輩の薫陶を受け、お世話になっている。応援歌を引き継いだし、一番名人先輩の域に到達したがっている選手かもしれません。

 ※奈良間の谷内先輩への思いの記事

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 見てると面白いんですよね。クールに聞き流してるやちやちが、たまーにピキってなってる。ノックをちょっと打ち損なった時に「ヤチコォォ〜〜チ!」が来ると、急にちょっと強い球打ったりしてまして。いい感じに練習のアクセント。

 そういえば、守備練習になるとおとなしかったジェイも、今年は積極的に声出ししています。去年は足の運びから教わっていて、リズムだのテンポだの以前の練習をしてましたけど、今年は谷地コーチや同級生の奈良間との掛け合いをする余裕があります。ちょっとぐらいチョンボをしても、去年までの戸惑う表情は見せない。へこんだら、コーチにまた「負のオーラ」って言われちゃいますもんね。

 選手たちにビンビン意識されてるやちやちコーチ。元々イケメン選手で人気があったし、カッコいいサングラスして、どこにいてもすぐわかる。本人は目立たないコーチになりたいそう(下記インタビューコメ)ですが、しっかりグラウンドで目立ちまくってます。

 また、この人のやってることなら正解だと思わせる選手を育てたいそうですが、本人がそういう選手だったわけですもんね。抑揚を抑えた練習も単調なメトロノームノックも、やちやち本人がやってきたことで、それなら正解に違いないと思えます。

 ついこの間まで一緒にプレーしていて、仲間を知り尽くしているからこその鬼コーチ。引退試合で、自分のことより仲間のプレーに目を光らせていた人の気持ちに、みんなが応えたくてしょうがない。

 今年の名護キャンプを見た一番の収穫は、そういう活気が見ていて嬉しい内野守備練習だったのでした。

※後半はプライベートの話などのコーチインタビュー

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※選手時代を振り返る記事

number.bunshun.jp