オリックス3連覇の選手管理力
オリックス優勝おめでとう〜!!!
パ・リーグでは約30年ぶりの3連覇。すごいなー。他チームの強力補強などあって今年も混戦パ・リーグかと思いきや、フタを開けたら圧勝ですもんね。
でも、一昨年、去年とマジックの出ないリーグ優勝でギリギリの戦いを乗り切ってきた選手たちが、日本一を経験してすっかり自信と勝負所の勘を身につけたんですからね。そりゃあ強くなる。若干不安定だった野手陣がオフの間に鍛え上げ、昨年までより攻撃力が格段にアップ。元々NPB随一の黄金投手陣とバランスが取れ、主役・脇役が補い合う。もはや四輪駆動ですよね。
主軸が抜けることへの対策も大成功。日本人選手はもとより、去年全員イマイチだった助っ人野手も、とうとう同じタイプの完全上位互換な選手を獲得してくる辺りの、編成部門の執念がすごい。そしてもちろん、現場の選手管理力が超高い。
メンバーを見れば、若い新たな戦力が続々活躍。去年までは初々しく苦労しながら1軍にくらいついていた選手が今年はもう落ち着き払ってる。1軍はほぼ今年からという選手も、固くなることなく、伸び伸びと力を発揮する。
一昨年は外の落とす球をファウルで粘っただけで「よしよし頑張った」と目を細められてたベニ(紅林)が、今年は狙って流し打ちをし、初顔のペータ(山下)や茶野らも何年も1軍常連だったような活躍を見せるのですから、育成力どんだけって感じ。
「全員が戦力」という中嶋監督の方針を球団が全面的にバックアップし、コーチやスタッフが的確に対応し、戦力のメンテナンスや供給に滞りがありませんでしたね。
この3年間のオリックスの貯金推移のグラフを見ると、全て後半戦で右肩上がり。他チームが疲労などで停滞する間も、オリックスはいつもフレッシュな戦力を補給していて息切れしないからできることだろうと思います。
ベテランふたりの動静
さて、若々しい力の台頭が目立った今年のチームですが、最終盤に、やっぱりこういうところが近年のオリの土台で強みだよなあと感じさせてくれたベテラン野手がいました。T-岡田と安達了一です。
”オリックスの顔” とも言えるふたりは、今年は初めっから苦労の連続。開幕メンバーには両者の名はなく、初登録は、Tが5月13日で安達が6月1日。
しかもなかなか1軍に長居できない。Tは不運にも17日に発熱で抹消となり、7月2日に登録成るも打率が上がらず27日に再抹消。安達は28日には下半身のコンディション不良で抹消。その後は快進撃する1軍を横目に、酷暑のファームで若手たちと鍛える日々が続きます。
もしやこのまま?……とさえ懸念される状況だったのですが、中嶋監督が彼らを忘れることはありませんでした。彼らの必要性やチームにもたらす影響を、一番良く知っているのが中嶋監督。じっとタイミングを図っていたことでしょう。そして、優勝が目前となった9月になって、満を持して彼らを呼び寄せました。
残りわずかなところで1軍に戻ったベテランコンビ。でも決して優勝に彩を添えるお飾り復帰ではありませんでしたね。
T-岡田
最後の最後、今日勝てば優勝の当日20日に復帰したT-岡田。いつもテディ・ベアみたいに優しくかわいい顔が真っ黒に日焼けして、ちょっとワイルドな野生のクマになって戻ってきました。後輩たちは、大好きなTさんの顔を見られるだけで沸き立ちます。いつもそうです。
監督もその雰囲気をよく知っています。就任後に何度もあったTの抹消からの復帰の際は、「もう 、TさんTさんですからね」と苦笑いしながら選手たちのわちゃわちゃを眺めてきました。そして、Tの力が一番発揮されるタイミングをいつも見計らってきました。今回は、優勝が掛かる20日がベストタイミング、と深慮したのでしょう。
チャンスが追いかけてくると言われたTは、そういう場面で数えきれないくらい悔しい思いをしています。でも、積もった悔しさを一気に晴らすぐらい劇的な一発を何度も放ってきたのです。それらの強い印象はみんなの記憶に焼き付いて、簡単に消えるものではありません。たとえ不調でも、彼はやっぱり "持っている” 選手なのです。
今年、彼が溜めた思いを晴らす舞台は優勝の掛かる試合になりました。スタメンの打席に立つと、2打席目にきっちりヒット。相手のロッテバッテリーに、1軍不在ブランクは関係ない、と思わせます。これがまず立派な仕事。そして、リードされる中で迎えた2死1塁の場面で、Tの周りにはこれまで重ねた経験のオーラが渦を巻きました。
地鳴りのような本拠地ファンの声援もTには慣れたもの。打席でのルーティンにも構えにも乱れは出ない。こうして相手投手は雰囲気に飲み込まれて行き、Tに四球を与えると連打を浴びて怒涛の逆転劇となったのです。
久々いきなりの大一番にも関わらず、場内の雰囲気を一気に変えて、試合が終わればまたキュートなクマさんに戻り、後輩たちにビールを掛けられてニコニコしている。そんなTさんの姿を見て、先輩として彼がいる幸せがオリの強みだなあ、としみじみ思ったのでした。
安達了一
ひと足先の9月9日に登録された安達に関しては、特に守りで "その時” への備えを感じました。上がった当日、いきなりショートを守ります。かつては守備名人の遊撃手とはいえ、去年、一昨年の2年間はセカンド専門。しかし、昔取った杵柄でした。この日の先発山本由伸のグラブを弾いた緩いゴロを見事に捌いてギリギリアウト。由伸のノーヒットノーランの偉業を援護しました。
その3日後、北海道のエスコンフィールドでスタは彼の備えを目の当たりにしました。エスコンで守るのは初めてです。内野のエラーが頻発するグラウンドの話を仲間に聞いていたかもしれません。守備練習をしていたあだっちゃん(安達)は、定位置の辺りの土を足で均したりしています。
そして、隣でトンボを持ったコーチとニヤニヤしながら話をしている。もしかしたらグラウンドの曲者ぶりに早くも気づいたのかな?、と思わせる雰囲気。それから視線を上げてフライなどの見え方の確認もします。棒立ちではなくちゃんと構えてボールを追うのです。ショートの守備位置を指示したりもしています。構えの良さは、試合での流れるようなゴロ捌きの基本です。
威勢のいい声出しや派手な動きはしないけれど、しっかり目視しながらの所作が冷静沈着。このひとつひとつの確認が試合につながっていくのだろうな、と見ているこちらにも伝わってくる。
この確認の積み重ねが彼の自信になっていて、その自信に裏付けられた彼のニヤニヤを見ると、周りの選手も落ち着けるんだろうなあ、きっと。
そういえば、エスコンの2試合目の録画中継を見たら、先発の福也(山﨑)が初回に失点した後、ベンチですぐにあだっちゃんが声を掛けていました。もしこれが若い選手だったら、久々の1軍ベンチでは遠慮があって打たれた投手に近づけはしないでしょう。
エスコンの2試合だけでも、ベテラン名野手の周囲への目配り力と準備力、応変な対応力を見せてもらえた気がします。優勝への詰めの段階で、中嶋監督が求めたのもきっとこの沈着さだったのだろうと思いました。
ベテラン選手の "その時" に備える力
シーズンのほとんどの時間をファームで過ごしていたベテラン選手。でも、最後のここぞの場面で必要とされ、周りが思惑する仕事をしっかり果たす。カッコいいなあ。
だって、”その時" が来ればしっかり存在感を示すって、簡単なことではないですもの。ファンがどんなに期待しても、なかなかそんなに上手くいくものじゃない。もちろんT-岡田や安達は勝負強い選手だけれど、それでもオリが弱かった時代は、"Tさん来たー!" "あだっちゃん頼むわ!" なんて声援に応えられない苦い思いもたくさんしてきた選手。
それが一昨年、去年とギリギリの戦いを制して勝者となった中で、土壇場で仕事をきっちり果たせるコツや心構えを完全に会得したんでしょうね。今年の長いファーム暮らしの中でもそのコツや心構えを忘れることなく、”その時” が来たらサッと手際よく取り出して見せたわけで、ほんとに見事な準備力。
若い選手たちだって「さすがじゃん、俺らの先輩!」ってなりますよね。盛り上がっちゃうし、ピリッと引き締まっちゃいますね。いつもニコニコ、ニヤニヤして優しい大好きな先輩が舞台を盛り上げるんですから、ますますチームは朗らかになる。
不遇かと思いきや、最後の "その時” にさすがの攻守でおいしい場面に顔を連ねたベテラン選手の備える力。圧倒的3連覇の地盤はここなんだよな、とあらためて感じたスタなのです。