アメリカ修行道中
日本ハムのキヨミー(清宮幸太郎)とロッテのヤスくん(安田尚憲)は、大の仲良し同級生である。ここ数年、オフになるとや二人一緒に行動している。つい先日も、彼らはアメリカのトレーニング施設に向かった。
ドライブラインというシアトルにあるその施設は、最新のデータシステムを駆使した動作解析や練習メニューで選手を後押しし、多くの有名プロスポーツ選手が訪れて成果を上げている高度なトレーニングジム。二人も早くから訪問を希望していたのが、コロナが落ち着いたところでやっと実現した、ということらしい。
もう帰国したはずなのだが、シアトルでの様子は、ヤスくんがインスタグラムでちょっぴり発信してくれた。写真を3枚と何度かのインスタストーリー(24時間限定投稿)、それからホテルの部屋でくつろぎながらのインスタライブ(ライブ時限定投稿)を1回。
車での移動中に、ファンフェスで披露したジンギスカンダンス(ハムチアガールが踊るダンス)の振付けを上機嫌で踊るキヨミーの姿が楽しかったストーリー。アメリカのホテルなのに、実家のこたつでくつろいでるようにしか見えなかったインスタライブ。
画面からは相変わらず、なにかにつけ「育ちがいいから」と言われる彼ららしいおっとりぶりが伝わってくる。倉庫のようないかつい施設で真剣にトレーニングに励む姿は、ギラギラとかガツガツといった形容詞とは無縁な生真面目さを醸し出すし、オフショットには、体育会系の乱暴でガサツないじりなどとは無縁な穏やかさが漂うし。
生き馬の目を抜くプロ野球の世界で6年も揉まれてきたというのに、ちっともスレた気配がない。それでも、シアトルのスタバの前に立つ彼らの写真を見た瞬間、お、と思ったものである。
なんかシュッとしたじゃないか。
ヘアスタイルも整って、センスの良い服を着こなして。
うん、ちゃーんと大人っぽくなってるね。
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ギータ自主トレ道中
プロの道に進んでからの二人の邂逅は、去年2022年の1月。彼らは師匠のギータ(ソフトバンク柳田悠岐)の自主トレに初めて揃って参加した。その様子を伝える記事の写真を見た時にはこう思ったものだ。
「……プロ野球選手っちゅうより時刻表オタクのちゅう坊(中学生)っぽい……」
この時、キヨミーは新庄監督に「デブじゃね?」と言われて減量中、ヤスくんはパワーアップのために増量中。シェイプアップもビルドアップも中途半端な頃だったし、髪型もウェアも学生さんと変わらない。お洒落にはとんと無頓着な雰囲気。まあ、それはそれで野球のことで頭がいっぱいな印象で好感度は高かったりもするのだけれど。
でも、ヤスくんが大人になっても逆上がりができないこと(お兄さんにすっぱ抜かれた)や、キヨミーがピッチャーフライを捕ろうとしてマウンドに躓いてこけた(パテレがバズった)こと、などなどを思い出しちゃうと、バリッとしたプロスポーツマンのイメージとかけ離れた二人の純朴過ぎる姿は、そこはかとない心配とも結びついたりしたものである。
一緒に過ごすのは、この自主トレが高校日本代表の合宿以来だったという二人。憧れのギータ師匠に活を入れられつつ、スーパーバッターの域に少しでも近づかんと汗を流したわけだが、元気な練習を公開した数日後、みんな揃ってコロナ感染するというオチが待っていたのであった……。
それでもこの時二人の友情はすっかり深まったようで、今年の1月も一緒にギータの自主トレに参加。が、一番目立った話題は、免許取り立てなのに高級外車を借りて遠距離運転を試みるマイペースキヨミーと、ビビりながらもそれに付き合うヤス、という迷コンビエピソード。
一緒にいるとどうしても、 "珍道中" の様相を呈す二人なのである。
なんでかなあ??。
高校代表合宿道中
おっとりコンビが初めて一緒に過ごしたのは、東(早稲田実業)の清宮、西(履正社)の安田、と評判も高かった高校生時代の代表合宿。そこで相部屋だったのだという。
両雄といっても、怪物級という扱いのキヨミーの人気が群を抜き、ヤスくんはそこにくらいつける選手という感じ。当時の話になると、だから、「安田が清宮を語る」という記事ばかりが見つかる。そして、そういう取材に対して、ヤスくんはうんざりした様子も見せず、毎度きちんとキヨミーの印象を語っている。
野球の技術や甲子園の思い出などもさることながら、ヤスくんがキヨミーを語るに当たって非常に重要視していると思われる話題がひとつある。自分で書いた手記の中でも書いていたりするから、彼の中ではすごく大事なことなのに違いない。それが宿題の思い出である。
きつい練習を終えて部屋に帰ってから、キヨミーが机に向かって一生懸命夏休みの宿題をこなしていた。それがヤスくんにはびっくりすることだったのだという。もう高校野球のスターだったのに、ちゃんと勉強もやっている。その姿が、自分も学業優秀で勉強熱心だったヤスくんには痛く響いたのだろう。
おそらく二人の気性や共通点を知った上での部屋割りだったのだろうが、狙いは図星で、ヤスくんには部屋の相棒に対するとても好もしい印象が残った。
キヨミー=夏休みの宿題。
それはたぶん、コツコツ真面目な多方面への努力家の証、なのである。
さて、キヨミーの方は高校時代のヤスくんをどう見ていたのか。そういった記事は不思議とほとんど見つけられない。この頃については、ヤスくん語る人、キヨミー語られる人、の構図が出来上がっていたらしい。
が、ひとつだけ、キヨミーがヤスくんの思い出を語る場面を見つけた。最初のギータ自主トレにヤスを取材に行った、ロッテ広報カジさん(梶原氏)のユーチューブである。この時、ヤスくん本人だけでなく、仲良しの選手にもマイクを向けてくれたのだ。そして、キヨミーに高校時代のヤスくんのことを聞いてくれていた。
キヨミー的ヤスくん評は、高校の時からすでに、周りをちゃんと見て和ませてくれるタイプということだった。その印象は自主トレで羽田から一緒だった旅路でも変わっておらず、色々と話題を振って楽しませてもらえたらしい。そこから翌年の初心者ドライブのお供へとつながるわけだな、なるほどね。
スター扱いされてもコツコツと宿題に取り組むキヨミーに感心したヤスくん。ヤスくんが周りが見えて場を和ませられることにちゃんと気づいていたキヨミー。二人の間に、似た者同士の親近感と同時に、お互いの本質への敬意が芽生えたのは、高校時代の短い相部屋の日々だったんだね。
まだまだ続くふたりの道中
高校時代の親交をプロに入ってから温め直した二人。過程を記事で追えば、意識しているのはヤスくんで、キヨミーは無頓着なようにも見える。でも今回のアメリカ道中を見ていると、キヨミーにとってもこの関係性はとっても大事なものらしい、と感じるのだ。
たぶん彼は、楽しませてくれる上に気配りしてくれるヤスくんといると、心底ほっとできるのじゃないかなあ。今回のアメリカ道中でも、ヤスくんに注ぐキヨミーの眼差しにはいつも安心感が漂っていたものなあ。
ヤスくんが何かしたり喋ったりしている時、キヨミーはすっかりリラックスしてその時間を委ねている感じだった。気の利いた反応をしたりツッコミを入れたりしようと構えることもなく、うなずいたり笑ったり。頼りになるお兄ちゃんを見る眼差しで、柔和に目を細めてヤスくんを眺めてた。
もちろん、ヤスくんのほうの眼差しも柔らかで温かい。はしゃいだり笑ったりするキヨミーのおおらかさを、心から楽しんでいる。みんなをびっくりさせる相棒の超マイペースっぷりも、練習の後に宿題をこなす姿を目の当たりにしたヤスくんから見たら、好ましい才能のひとつなのかもしれない。
良い友情だ。彼らの道中はずーっと続いていってほしい。弥次喜多の膝栗毛みたいに面白いエピソードをいっぱい連ねていってほしい。
そのためには、二人が共に野球で結果を出さねばならない。今年はどちらもファームに落ちたりして、満足できる成績じゃあなかった。それでも、キヨミーはサードという場所で期待感をグッと高めたし、ヤスはポストシーズンで大活躍して存在感を取り戻せた。来年は正念場で、しっかり飛躍して見せないとね。
時刻表オタクの中学生みたいだった自主トレから2年足らず。今年、キヨミーはシェイプアップに成功し、パーマも似合ってる。走り方や守りの動きもすっかり俊敏になってきた。そして、ヤスくんはなんとご結婚である。"文春砲” で「おめでとう〜!」の嵐となるのもお人柄だね。エステもちゃんと行って一瞬で垢抜けた。
うん、二人とも、絶対なんかシュッとした。
大人っぽいプロ野球選手になってきたよ、本当に。
来年年明けのギータ自主トレ。キヨミーは参加だがヤスくんは卒業するそうだ。頑張って、そのうち自分たちに弟子が付いてくるようにならなきゃね。そして二人は、オールスターとかジャパンとか、そんな舞台でまた一緒になればいい。
祈っているよ。
二人の珍道中の話題が溜まりに溜まって、また書かずにおられぬ時が来ますように。
来年が、新たな道中の始まりになりますように。