西武・松坂大輔の姿を久しぶりに見ることができた引退試合。舞台は本拠地メットライフドーム。背番号も全盛期と同じ18番。涙も光りましたが、楽しそうに役目を果たしました。なんか、良かったですね。最後の対戦相手として、高校の後輩で、打つ方の天才コンちゃん(近藤健介)がいたというのも素敵な巡り合わせ。日本ハムには、他にもたくさん後輩がいたのもご縁でしたね。
キャッチャーまで届かせるのにも苦労している姿に、本当にもう、力は全て使い果たし終えていることがわかります。見ている人全て、たった5球の投球の間に、彼の積み重ねてきた時間や努力や苦労を察して納得し、心の底から「長い間お疲れ様」と労う気持ちになれたでしょう。
そのあと試合が続いたこともありますが、うっかりすると痛々しくなってしまいそうな投球も、本人のマウンドへの惜別や涙も、切なさは思いのほか少なく、からりと明るい諦観が満ちていると感じました。試合後の胴上げや握手なんて、微笑ましくて陽気なくらい。良いカーテンコールでした。
これがやっぱり、松坂の人柄なんだろうなあ、と思いました。彼って、大選手には珍しいくらいなユーモアの持ち主だったと思うんですよ。どんな時でも、彼がニヤニヤって笑うと、それまでの深刻な空気が掻き消されて、楽しそうな遊び心の雰囲気になる。そういうところが、最後の引退試合でも出たなあ。
松坂の日本のプロ野球時代の経歴だけ思い出すと、とんでもない投球数で投げ続けた挙げ句、大事な試合の最後に打たれて泣いてた場面ばかりが脳裏に浮かびます。やっと栄光を手にできた!と思ったのはWBC優勝でしたが、2回目の時はメジャーのシーズンに影響してしまい、酷く叩かれました。若い頃のスタは、松坂の報われなさが可哀想で、しばしば野球神に悪態をついていたものです。
それでも松坂の場合、打たれた悲哀は一過性のものでした。彼はすぐに立ち直ってはチームメイトと楽しそうに練習し、近所のガキんちょのような笑顔や口調を取り戻し、また素晴らしい投球を見せる。その繰り返し。
性格は頑固でちょっぴり天邪鬼という記事もあるけれど、昭和的なエースの悲壮感や根性主義、人を寄せ付けないストイックさや怒気といったものとは無縁で、現代っ子(当時)の新しいタイプのエースでした。ちょっとくらい生意気なことを言われても、あの人懐こさを見せられたら、周りも怒れないですよね。西武に入団した頃は、デニーやら石井貴やらのコワモテ系先輩たちとの掛け合いがめっちゃ面白かった。石井貴が眉根寄せて喋ってたのに、松坂にツッコミ入れられて「あらそーお?」ってオネエ言葉になったりして。いい先輩たちでしたね。
あとやっぱり、後輩のナカジ(中島裕之)やおかわり君(中村剛也)の守備に足引っ張りまくられていた頃の姿も忘れられない。例の、「うちの野手は球際に弱すぎる」発言が出た試合、見てたんですけどね。ずっとエラーが続き、たしかその試合でもぽろぽろ出てたのを松坂がしのぐ、って感じで進んでいたはず。で、終盤にとうとう連続でやらかしちゃったんですよ。ナカジがエラーで出塁させて、おかわりがバント処理ミスってオールセーフだったかなあ、詳しく覚えてませんが。
まあ酷かった😅。後ろを振り返っていた松坂の背中が、「えええええ〜⁉︎。うっそ〜ん⁉︎。そう来る⁉︎ 連続で来る⁉︎ 」って言ってました。地面蹴り飛ばすとか、○柳さんみたいにグラブ投げつけるなんてことはしないけど、さすがに後ろ姿に💢が見えた。その試合はそれで負けて、出たのが上記の球際発言でした。
おかわり君、惜別のコメントで謝ってますね(笑)。でも、今や名手です。
引退後はしばらく家族とのんびりして、やりたいこともいっぱいあるそうです。彼のツイッターなど見ても、ギターを弾いたり、多趣味ぶりが伺える。たぶん、とても情緒豊かで、人生の色々なことに楽しみを見つけられる人なのだと思います。そういえば、カメムシ食べた人のツイートに、えらく反応してたことがあったなあ。面白い人間です。
(と、思ったら食べた人が松坂の引退受けてツイート貼り直していた)
デリカシー細井 on Twitter: "松坂大輔が引退してしまったので、10年前に私がカメムシを食べて褒めてもらった自慢をしておきます(定期)
https://t.co/wAwbyUIkTc… "
体ぼろぼろの姿を見せての引退登板も、朗らかさと笑いを忘れなかった稀代のエース、松坂大輔。その投球もさることながら、常にユーモアというマントを羽織っていた心豊かな王様の風格を、忘れないでいたいと思う選手です。