WBC優勝、何より大きかった選手たちの力。もちろん、今回はすごく力のある選手が集まったのがまず1番の要因ですね。しかも、彼らがみんな、準備した力を十二分に発揮してくれました。そういう良い方向に流れが向いたのは、きっとメンタルが充実していたからだろうな、って思います。
メンタルってまとめちゃうのは簡単なんですが、見ていたら、選手たちのメンタル部分の強さにもいくつかタイプがあったなって感じたんですよね。
立場や経験や年齢などなど、色々な要素で少しずつ種類の違う強メンタルが絡み合い、相互作用で「魂」になっていった感じ。
そのあたりを今回は考えてみたいと思います。
■メジャー実績組のエンジョイ魂
今回集まった代表選手の中で、まず強メンタルを発揮してくれたのがメジャー組。彼らの強みは明るさでした。本気でやる、真剣にやるということは、野球においてはピリピリカリカリ険しい雰囲気でやるということとイコールではないよ、って彼らが示してくれました。
一番緊張する舞台を前にしてもブレることなく、技術を会得したり勝負の勘所を掴んだりすることをエンジョイし続けた彼らの姿勢によって、チーム全体が前向きな陽の気に包まれましたね。
やっぱりなんと言っても大きかったのはダルビッシュ有の前乗りでしょうか。すっかり大人になって人への包容力が出て、持ち前の大阪人らしいユーモアも遺憾無く発揮できるようになったダル。それでも試合となれば神経質な所はどうしても出ます。本来の人懐こさや朗らかさが伝わるためには、余裕のある練習期間の滞在が不可欠だったはず。自分の気性も考えた上での事前乗り込みだったんじゃないのかな。
彼は、代表参加が決まった時から、日本人選手たちに深刻になりすぎないようメッセージを送り続けていました。そのことを言葉にするだけではなく、自ら雰囲気を変えようと動いた主体性が素晴らしかったな、って思います。日本に来てからすぐに、飲み会という至極日本的な接し方でアプローチしたダルの潤滑油ぶりはお見事でした。
それから大谷翔平。彼も今大会の参加の仕方がものすごく主体的でしたね。ダルを誘ったり所属のエンゼルスを説得したり。そして、張り切りぶりを全く隠そうともしないのが、日本時代からの彼を見ていたスタには新鮮でした。投球時にあんなに声を出す姿はもちろん初めて見たし、吼えるとかガッツポーズするとかだって、あそこまで派手にやるほうじゃなかったですもの。今回の変身は「ワイルド・ショーヘイ、いいじゃん!」って感じでした。
そしてやっぱり、仲間への接し方のフレンドリーさが明るくて良かった。なんていうんですかね、大谷がいるとすごくその周辺が男子集団って感じになるんですよね。優等生キャラなようでいて、日本ハムにいた時はうわっち(上沢)なんかに「クソガキですよ」って言われる末弟キャラでした。それが今回の代表では優等生キャラになるかと思いきや、まんまクソガキ兄貴の暴れっぷりをベンチでも展開していたのが良かったなあ。
今回の代表には宮城や高橋宏斗など甘え上手な弟キャラがいたこともあってか、ずーっとハイなクソガキモードを維持する大谷と相まって、完全にやんちゃな男子集団の雰囲気が出来上がっていました。ダルがほぐしておいた空気を大谷が練り上げた感がある。イケイケな明るさは大谷が作り出してくれましたね。
たっちゃん(ヌートバー)は、初めてのことを素直に受け入れ物怖じしない明るさをもたらしてくれました。初めて来た日本での何もかもに目を輝かせ、試合でも「まず様子を見る」なんて慎重さよりも、やれることをすぐやる積極性でいい結果をものにする。ママについても日本についても代表チームについても、愛をそのまんま表現する。
ダルも大谷も、メジャーに行って技術面のほかに、他人への接し方や自分の気持ちの表現の仕方が大きく変わりましたね。派手になったというか、ちゃんとパフォーマンスとして表現して見せるようになった感じ。たっちゃんママもそういう意味で気持ちの表現が上手ですね。
最大多数に受け入れられる形というものを身につけ、それでも曲解されたりする場合への準備もちゃんとできていて、他人の様子で心が挫けることなく表現を続けられるようになってる。アメリカはそういうところが大きいんだろうなって思います。
今回のメジャー組は技術もさることながら、折れないエンジョイ魂で代表チームの気持ちをおおらかに明るく保たせてくれました。
■トップ国際大会経験組の準備万端魂
メジャー実績組の華やかな活動ぶりに次いで、代表の土台をがっちり固める活躍を見せてくれたのがトップ国際大会経験組です。ここぞの場面で実力を発揮し続け、代表チームのプライドと自信を揺らがぬものにしたのは彼ら。
投手なら伊藤大海や山本由伸、今永昇太らの落ち着きぶり。捕手という大変なポジションのお手本として動いた甲斐拓也。シンボルとなったダルビッシュを支えて、未経験者や若手も多かったバッテリー組に芯を通したのが彼らでした。
野手も経験組ががっちり骨組みを形成していましたね。セカンドでやっぱりいつの間にかスタメン確保していた山田哲人。前半はちょと調子が上がらず牧もガンガン打っていて、世代交代かなって雰囲気もあったのに、最後は結局、国際試合に滅法強いというイメージ通りの活躍です。
そして、パ主義なスタの印象に残ったのは、源田壮亮、近藤健介、吉田正尚、周東右京。何が印象的だったかというと、彼らのリベンジ力です。彼らみんな、国際大会での悔しい思いを抱えていたことがあるメンバーなんですよね。
源ちゃんとコンちゃんは、東京五輪で出番が少なくて力を発揮できなかった。正尚はプレミア12で出番が少なく、東京五輪はぼちぼち打ったけど長打は1本もなく、本来の力を出し切れたわけではなかった。周東はプレミア12を席巻したのに東京五輪は出場すらできなかった。
そういった思いを胸に秘め、今回は絶対にほぞを噛むことはしないぞ、と完璧な準備をして臨んだのでしょう。身体も技術も心もその他諸々も、選考時から何ひとつ抜かりなく整えて、出場に備えたに違いない。
だからこそ、源ちゃんは骨折という事態でも全く怯まず、コンちゃんはFAなどのバタバタもあった中で強化試合から打ちまくり、正尚も最初のチャンスからポイントゲッターとなった上に土壇場で本来の長打力を見せつける3ランを放ち、周東だって少ない出番で迷いなき走塁を披露できた。
彼らの「次は絶対自分の力を出し切ってやる!」という決意から生まれた準備万端魂こそ、代表チームを本番が始まってすぐに波に乗せた原動力だったと思います。
■控え組のいつでも行けるぜ魂
トップの国際大会では、自チームで不動のレギュラーなのに代表に来たら控えに回るという選手が何人も出てきます。最初から控え的な役割となるであろう選出であったり、出足の中でちょっと流れを掴み損なうなどのほんのわずかな巡り合わせであったり、理由は色々。
数少ない試合ですから思い出出場なんて、与えられるわけもないのです。彼らには、本当に必要な場面の必要な役割だけが回ってきます。普段は試合に出ずっぱりで当たり前な選手たちが、そういう突発の、いつ訪れるかもわからない、たいていは厳しい場面での急な出場に備え続けるのは本当に大変だったと思います。
それでも今回、彼らはみんな、長い待機時間に辛抱強く耐え、いざ巡ってきた大事な出場場面では、きっちり役割を果たして見せました。
例えばほたぴ(山川穂高)。強化試合段階でちょっとヒットが出ずにバットを旧型に戻すなどして出遅れました。年齢やキャリアから言えば他の選手の後塵を拝さなくても良い選手だけど、途中からは控えに回る形になりました。
でも、そこで暗い表情や焦った素振りを全く見せず、明るいムードをずっと漂わせていたのが彼らしい。そういう状況でも腐ることなく調子を上げていたといいます。そして回ってきたのが準決勝の8回裏です。2点リードされてのここぞの場面で代打で登場。1点差に詰め寄る犠牲フライを放ちました。この1点がサヨナラ勝利を呼んだと皆感じたと思います。
代打で犠牲フライは簡単なことではありません。それまでに代打を重ねていたわけでもなかったのですから、なおさらです。でも、ほたぴは「いつでも行けるぜ」と、気持ちを張り続けていました。
今回の控え選手たちには、ほたぴと同じ心意気がベンチやブルペンから溢れ出てました。間際の代替え登録になり、でも一度も登板できなかった主婦(山﨑颯一郎)が、決勝のブルペンでギラギラしながら身を乗り出して試合を見ていた姿も象徴的でした。もし誰かひとりでも、ああもう出番なさそうだなって緩んでいたら、どこかに綻びが出たでしょう。
控えの選手全員が持ち続けていた「いつでも行けるぜ魂」の熱気が、レギュラーメンバーの後押しになっていったのですよね。そしてまた、彼らのような思いを胸に秘めた選手たちが次回の代表の中心となった時、きっと頼もしい活躍を見せてくれるのだと思わせてくれました。
■現代っ子たちの情報吸収魂
今回の代表チーム、U24の若い選手が何人も招集されていました。25歳まで上げれば11人もいました。トップ国際大会が初めての選手も多かったのに、彼らは皆、出番ではしっかりと足が地についたプレーを見せて、ちゃーんと与えられた役割をこなしました。普段の力が全然出せないなんていう選手はいませんでした。
本当に若い子たちのレベルが高くなっていますね。スタはここ数年の選手たちの力量の底上げ凄いなって常々思ってたんですよね。数字上で現れるのは投手の球速アップくらいだけど、全体的に上がってるよねって。
ダルビッシュたちが入ってきた頃に、投手たち先頭にしてグッと上がったけど、ここ数年はまたそこから野手も含めて一段二段上がってる。だから東京ラウンドの楽勝ぶりにも全然驚かなかったけど、それにしても若い選手たちの落ち着きぶりと能力はたいしたものだ、と、あらためて感心しました。
なんでこんなに若い子たちの能力高くなったのかなあ、って考えた時、要因の一番に思えたのが彼らの情報収集力です。インターネットのある今は、高校生でさえ解析の手段やデータの見方の知識を持っています。しかも、それらの知識を自分の練習に組み込む方法も理解してたりします。情報の吸収力が高いのです。
実際にプロに入ってきた時に体力や技術に差があっても、高い意識を持ってギャップをすぐに埋めて行ける子の多さは昔とは段違い。素質が高かった子は、もう小・中学生くらいから代表に選抜されて国際大会の経験を積んで、しかも、修学旅行みたいな思い出にするのではなく、将来自分が進む場所(メジャーやWBC)への経験値として活かしてきています。
収集した情報を机上の空論にせず、しっかり身につける今の若手選手たちの情報吸収魂。彼らのそういった意識と能力の高さが、今回の代表の下支えになっていたと思います。
■まとめ
以上が、第5回WBCで最高なJAPAN代表の最高な優勝が生まれた、選手たちのメンタル面の考察です。色々な状況の選手たちが、それぞれの立場なりの「魂」を持ってモチベーションを保ち、チームを盛り上げていきました。その結果、チームは掛けがえのない仲間となり、絆が生まれ、お互いが萎縮することなく力を発揮できるムードになっていったように思います。
野球の場合の仲間の絆って、昭和あたりだと完全に仕事仲間っていう感じでしたけど、今ってわりと家族意識に近い感覚があるように思うんですね。
スタはよく、「3兄弟の法則」っていう言葉にして、チームの中に長兄・次兄・末弟の関係がバランスよくできて、各兄弟がそれぞれ力を発揮し始めると強くなるって言うんですけど、今回の代表チームもその法則ができてたなって感じました。
情報吸収力に長けて実力はあるのに、めちゃくちゃ甘え上手な20代前半の末弟たち。意外とやんちゃで彼らを上手にかまってはムードを盛り上げる、活気を持った20代後半の中兄たち。そんな弟たちのわちゃわちゃを温かく見守りつつも、きっちりと自分の仕事をこなしていくしっかり者30代の長兄たち。
もちろん、最初にそういう方向に持っていこうと振る舞ったダルビッシュの貢献度が高いのですが、短期間でこうなっていったのは、自由に選手たちを泳がせた監督はじめ首脳陣の気風もとても大きかったと思います。
今の選手はちゃんと意識が高いのです。古い考えの押し付けで雰囲気を作ろうとするのではなく、選手たちが自分で盛り上がるように、まずは放牧する牧場の環境を整えてあげる。それができることが首脳陣に求められる一番の技量。ほったらかしにするのとは違いますね。情報や説明をしっかり与えることができないと難しいことです。
こうして、今回は素晴らしい結果がもたらされましたが、今後も様々な代表チームや国際大会が展開していくことを考えた時、毎度今回と比べてしまいそうで、それだけがちょっぴりの懸念。常に物足りない気分になっちゃいそうで怖い(笑)。
ファンとしてのメンタルもちゃんと鍛えて、「どんな代表、どんな大会でも心から応援するぜ魂」を身につけなくちゃね。
選手たちのことを考察しつつ、自分の気持ちも振り返ってみたスタなのです。