去年の対戦相性のポイントは?
1月10日(水)大宮で開催された「さちとらトークショー」。オリックスでバッテリーを組んで日本一を経験し、一年違いで同じ日本ハムにFA移籍して再びタッグを組むことになった山﨑福也と伏見寅威の、初の2人でのトークショーです。総合司会は田口恵美子さん(元TBSスポーツキャスターでオリックス田口コーチ夫人)、MCは山本圭壱さん。
まずは移籍話で口火を切ったトーク、その後も快調なテンポで進行します。ちょいちょい記憶曖昧、順不同の点をご容赦いただき、見聞録もどんどん進めてまいりましょう。(これまでを未読の方は最後にリンクと写真等を貼ってあります)
話題は、阿吽の呼吸で信頼し合っていた2人が敵味方となって対戦した昨年の相性へと進みます。これはもう、予想以上に一方的な成績となりました。ちょっと対戦成績調べてみました。( )内は福也の成績です。
7/23 ほっと 2-2(自責1 勝敗無)
7/29 京セラ 2-0(自責2 勝)
8/19 京セラ 2-2(自責0 勝)
9/01 エ ス コン 4-1 本塁打1(自責2 負)
9/13 エ ス コン 1-1(自責3 負)
最終的に、11打数6安打で545.。これだけでも結構な打率なんですが、最初の方がもっと打ちまくってたもんで、その印象が強烈。特に、9月1日のエスコンの第1打席に大きなホームラン打ちましてね。そこまでで7打数5安打 714.。
その数字、司会の田口さんが記録のメモを読みながら思わず小さな声で、「……ボコボコ……」と形容してしまうほど。ホームランについても「あれはすっごい当たりでしたよねえ……」と呆れながら思い出されていましたけど、本当に皆がどよめく会心の当たりだったんです。
それがこちら。まあとにかく、パテレがサムネタイトルにするほどの相性でした。
この数字の話になって福也が「先輩なのに優しくねえなあ、って」とこぼすと、寅威がニヤニヤと楽しそうに、一番の分岐点について話しだします。ポイントは7月23日のほっともっと神戸での初打席にあったそう。
「第1打席が全てです」
「あの打席に賭けてました」
その打席、すぐに2ストライクと追い込まれ、まずいなと思う状況に。そうしたら、その後の球が思わぬ甘い所に入ってきたと言うのです。
寅威の予想
「たぶん若月(捕手)がインサイドを要求して、福也が力んだんだと思うんですよ」
福也の答え
「よし打ち取れると思ったら、若月のサインがなぜかインサイドなんですよ」
「『え?マジか?』『大丈夫か?』と思ったんですけど……」
「まあいっかって投げたら力んで抜けちゃって……」
まあ確かに、福也という投手の特徴を考えたら、ここはひとまず外角とか変化球というパターン。でも、ケンケン(若月)としたら、寅威は福也のことを良く知ってるから変化球を待っているかもと考えちゃったのかもしれません。寅さん、外の変化球を右に運ぶの得意ですからね。それに、去年の福也はストレートの質も上がっていましたし。裏をかこうとしたのかも。
でもほら、前回の記事であったじゃないですか。福也は、思っているのと違う球のサインで戸惑うと調子が狂うという話。たぶんこの時も、「まあいっか」と投げては見たものの、一瞬戸惑ったんでしょうねー。それでちょっとばかり手元が狂い、甘い所に入っちゃった。
それを、第1打席に賭けていた寅威が逃さず打って、球はセンター前に抜けていきます。そこから後は、変化球を投げれば合わされるし、何を投げても打たれる感じになっちゃった模様。そんな中で迎えたのが9月1日の第1打席。
寅威は「対策してくるだろうと思って、それまでの球全部研究して、次はこれだなと待っていた」のだそうですよ。インハイのストレート。ほっともっとの時とは違い、その球を福也は投げ切ったのだけれども、なんせ「それしか狙ってなかった」という球を投げ込んじゃったわけですよ。となればプロです。ああいうホームランになっちゃうわけですね。
動画でも、なんとも言えぬ表情をしていた福也。「鮮明に覚えてます。打ち方が完全に狙ってました」とのことで、ベンチに戻ってもケンケンと「寅威さんわっかんねえ〜」とお手上げ状態になり、「もういいや、ゾーンで行こう」と開き直ったそう。その後の打席を抑えたのは、開き直りが功を奏したのかも。
ともかく、この対戦相性話題、寅威は福也のことが本当に手に取るようにわかってるんだなあ、というのが客席のファンにも伝わってきました。MCの山本さんがクセでもあるのかと聞いても、「正直クセは無いです」と言っていた寅威。もちろん、球筋がよくわかっているという点は要因だと思うのですが、話を聞いていれば、やっぱりメンタル面を知り尽くしているのが大きそう。
まず、ほっともっとでの初打席について、寅威の言では、打たれた苦手意識を最初に持たせられたことが大事だったのだとか。その意識が1年続くことが、その後の打席の結果につながったのだと言います。で、その言葉を聞いてる福也は、ほお〜と横で本気で感心してる。なんなら拍手したりしてる。素直過ぎる三十路二児のパパ投手。
あと、敵になったパイセン捕手は、打った後のダメ押しにも抜かりがない。煽りまくっていたらしい。初対戦初ヒットの時は、「この打席に賭けていたからめちゃ嬉しかったので、『よっしゃぁーー!!』って大きな声出しながら走りました」とのこと。
その様子を動画に収めてくださってたファンがいました。声まで聞こえませんけど、相当大声出してたんでしょうね。1塁手をしていた仲良し先輩のTさん(T-岡田)に、「なんやねん、喜びすぎや」って感じで足で砂かけられてます。
福也が力んだ一球を寅威さんが持って行ったさちとら対決
— たい焼き 🍚🐯🫶😏 (@taiyaki_tyt) 2024年1月11日
我ながらアングル良くない?(なお手ぶれ) https://t.co/IENrxvSmY1
打たれた福也の感想は、「うるせぇ〜って思ってました」。その後大阪でのトークショーで打たれたくないオリ選手に大学同期の福田周平を挙げたんですが、その理由も、打つとうるさくてイラッとするからだったらしい。
寅威もたぶん、打った打者がはしゃぐと少々イラちになる福也の性分を知った上で、初ヒットの印象をさらに強く植え付けようとしたんでしょうね。まったく、いけずなパイセンです。なお、試合が終わった後はすぐ、「やったーー!」ってラインもするらしい。ウザいことこの上なし。
本当に、去年の寅威はオリックス戦を楽しんでました。ホームラン動画を見ると次打席でも大ファウルを放っていますが、このファウルについて、彼はハム有料動画MIRUのインタビューで触れています。ホームランの球と同じコースの変化球。バッテリーのファウル狙いの術中にハマっちゃった、と苦笑いしていました。
きっと、福也&ケンケンとの駆け引きはことさら深い読み合いで、そこがいっそう面白かったに違いない。
カモと苦手のバランス変化
去年は元相棒の気性や思考を読み切って、対戦成績で圧倒した寅威。最初の頃は対戦が楽しみだったけど、だんだん笑い事じゃなくなってきた福也。
はるか太古の昔の地上波でやってた頃のプロ野球ニュースに、「カモと苦手」っていうコーナーがあったんですが、去年の対戦についての2人の話はそのコーナーを思い出させてくれました。
突然とんでもない苦手が現れたのが福也。元からすごい苦手な、天敵みたいな打者が2人いたそうで、それが去年はもう1人増えちゃった。「よりによって寅威さんかよ……」と思ったそうですが、今年はその天敵みたいな相手がひとり減るという話になって、かなりご機嫌。
ちなみに、福也のあと2人の苦手打者は誰だろう?と思って調べてみました。10打席前後対戦した打者で寅威の次を見ると、ロッテの岡大海が 600.でダントツ、石川慎吾が 500.で続いてます。
でも、福也の「天敵」って考えると、頭に浮かぶのはソフトバンクのギータ(柳田)。今年の対戦成績は9打数で 444. だけど、毎年打たれてるんですよね。オリックス時代にはその件について中嶋監督が言及してニュースになったりしています。そして、岡は明治大学の先輩。1学年上のキャプテンでした。意識しやすい福也の性格を考えると、どうもこの2人っぽいなって気がします。
一方、去年打撃不調だった寅威にとっては、福也がほぼ唯一のカモ。かろうじて2割に乗った打率も、福也のおかげと言って過言ではない。いっぱい研究して手の内を読み、最高の成果を出したのに、わずか1年で相手との対戦消滅です。「振り出しに戻っちゃって、僕はまた一からですね」と語る寅威。それまで打たれた話ばっかりだった福也が、この時はめっちゃニヤニヤ嬉しそうにしてました。
こうしてみると、同じチームになってカモと苦手のバランスが変化した恩恵が大きいのは福也。でも、寅威も去年の轍は踏むまいと、じっくりオフに鍛えています。唯一のカモを失ってどう巻き返してくるか、そこもひとつの見どころです。
オリ選手との対戦は
今年の話になると、山本さんや田口さんが、古巣オリックスとの対戦について水を向けます。怖い打者と対戦が楽しみな打者を聞かれたのは福也。苦手な打者は森友哉、楽しみな打者は頓宮。
一昨年まで西武で対戦相手だった森にはその頃も打たれたし、去年の日本シリーズ前の練習紅白戦でもきれいに打ち返されたとのことですが、そこで去年の苦手打者だった寅威から小さな声でひと言注意が入ります。
「若月も第2の俺みたいにならないようにしないと」
それを聞いた福也は、
「若月にも紅白戦とかで良く打たれてまして……(ハッ!)」
突然、びっくりしたカワウソのように目をまん丸くして、何かに気づいたらしいサチヤくん。
「……ボク、キャッチャーが苦手みたいですね!」
場内またもや爆笑でございます。捕手から見て、どんだけ素直でわかりやすいのやら。ああそれなのに、対戦が楽しみな相手もバッテリーだったことがある頓宮というね。もはや「飛んで火にいる夏の虫体質」と呼びたい三十路二児のパパ投手。
今年リードする寅威、責任重大ですな。素直な福也が、捕手だった友哉やケンケンやトングーと向き合ったら、自分の時のように吸い込まれるように待ってる球を投げちゃう恐れが多分にありそう。なんとか集中力を保たせないとなりませんよね。
ハム移籍後は、投手たちをひたすら我慢強く優しく励ますリードで支えてきたけれど、福也と組んだらやっぱり、オリ時代のように宥めたりすかしたり叱ったりする姿が見られそう。
まあ、これぞさちとらの妙味、味わいというものでもあります。おそらく客席にいた長年のファンは、ちょっとワクワクが高まったに違いありません。
オリックス戦さちとらは、捕手との対戦から目を離すまじ!。
相手のかわいい所、カッコいい所
トークの終盤はファンからの質問コーナー。たくさんあったので次回にまとめようと思いましたが、その中で、今回記事に関連したものをひとつだけ先にピックアップします。お互いにつき、かわいい、カッコいいと思う所をあげてほしいという質問です。
まず、寅威パイセンが後輩サチヤについて語ります。かわいいと思うのは、ほかでも言ったことがあるけれど、仲良しだけど常に一緒というわけじゃないのに、登板日が迫るに連れ、だんだん近づいてくるところ。少し前から明らかに周りをうろうろし始めて、3日前、2日前とどんどん近寄ってくる。1日前にはほとんどべったりになってる。
それは若月にもやってます、とキリリと答える福也。寅威さんにだけじゃないもん!って言いたげな福也。でもパイセンにとっては、自分に寄ってくるという理由じゃなく、普段はマイペースな子が登板前になると落ち着かなくて、捕手を頼ってソワソワし始める、その様子がいじらしいのだよ、きっと。
カッコいいのは、性格が男らしいところ。見た目はかわいいけど女々しくない。試合で打たれても、絶対捕手のせいにしない。自分のせいですっていうタイプ。
ここで、MC山本さんがすかさず福也にマイクを向ける。はい、この記事での寅威に打たれた時の話、思い出しましょう。
山本「(……で) 寅威さんに打たれたのは?」
福也「(間髪入れず) あれは若月のせいっす(ニッコリ)」
ケンケン愛されておりますね。まあ、あの、ほっともっとの1打席目。予想外の球を要求されると調子が狂いがちな投手に、2ストライクから「マジ?」と動揺するインコースサインで手元を狂わせたリードが全ての始まりだった、というわけですね。意外と根に持つタイプな福也氏です。
そして、寅威について聞かれると、ほぼ即答な福也が珍しく考え込みます。「……かわいい所、かわいい?……う〜ん…かわいい?」「……寅威さんのこと、かわいいっていう視点で見たことないなあ……」。
その場で適当に思いつくこともできないくらい、かわいいという視点が持てないらしい。あんまり悩んでるもんだから、かっこいい所までうやむやになっちゃった。現地でもし聞いてた方いらしたら教えてください。
とにかく、福也にとっての寅威はひたすら頼もしい人であるらしい、ということだけはわかります。元来、小さいもの、弱々しく愛らしいものへの印象である「かわいい」という感情が入る隙間がない。そのくらい、大きな存在なのでしょう。
ほかにたくさんあった質問の答えでも、2人の関係性が滲み出ました。気持ちが真っ正直に出てわかりやすい、ひたすら素直な後輩投手。煽りまくったりするけれど、実は誰よりよく観察し、暖かく見守っている先輩捕手。
そんな関係が見えたトークショーの続きを、もう少し書いていきます。ちょっと長くなってますけど、次もぜひ読んでみてください。
<次回へ続く>
<前編、後編①③はこちら>
<メディア参考記事>
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