何度でも帰ってくる不屈の絶対王者
荻野貴司(たかし)
2020年のパ・リーグで巻き起こった一大韋駄天ムーブメントの立役者たちを取り上げてきたこのシリーズもいよいよ最後の一人です。トリはやっぱりこの人しかいませんね。
はい、もちろん、荻野貴司 です。周東のインパクトは、どうしたってデビュー年の荻野と重なりましたが、やっぱり2010年春の荻野の衝撃の方が大きかった、と思う人も多いかもしれません。実はスタもその一人です。と言うのも、あの春の荻野の妖精ぶり、この世のものじゃない感を、実際に球場で目撃したからです。
昨年の野球が無い間、ダルのYouTubeチャンネルを楽しんでいたのですが、どこかの回で、デビューしたばかりの荻野に走り回られた思い出を話していました。
👇これの3:00頃
👇その場面の動画。まだ細くて球も今ほど速くないダルも懐かしい。この後ノーヒットで得点。
スタが荻野を見たのは多分その直後。ロッテ香月とライオンズ田中(現ロッテ)が先発の試合を観戦した記憶があるので、おそらく2010年4月29日の試合だと思います。最初の打席から快足ぶりを見せつけられ、盗塁も目撃しました。記録を見ると走者が3塁にいてその影響もあってキャッチャーが送球しない盗塁でした。
が、送球できなかったことは二次的な問題で、見ている者を驚かせたのは、荻野の間合いの異次元感だったのです。何度も何度も牽制をしたあげく、渋々ピッチャーが投球モーションに入ったその瞬間に切られたスタート。投球ボールがキャッチャーミットに収まった時には、荻野はもうセカンドの手前でした。
その時、球場の中にすごく奇妙な空気が流れたのをよく覚えています。他の選手の盗塁とは何かが違うタイミング。牽制が繰り返されるうちに、観客の間には段々諦めのムードが漂い始め、「あーこれ走られちゃうんだろーなー」という雰囲気に変わります。そして、走った瞬間に「あーやっぱりなー」となり、セーフのコールで「まあそーなるよねー」という感じ。どよめきでも悲嘆でもなく、およそ野球とは思えないおっとりした溜め息がスタンドに満ちていきました。
荻野以外の選手では、盗塁の瞬間、グラウンド内の全ての動きがスピードアップします。ピッチャーやキャッチャーのモーション、送球、内野手のカバー。みんな風を切るような素早い動きになり、そこがスリリングなんですよね。ところが荻野の盗塁はその逆で、周りの動きがスローモーションになってしまったような錯覚に陥るのです。
昨年のパテレ動画に、投手が足をあげる前に荻野が走り出したかに見える動画がありました。ちょっと間抜けな空気感になるぐらいの、不思議な盗塁。これはちょっと極端ですが、通常でも、投手がやけにのんびりして見えちゃうことがよくあります。
■パテレ 投手が止まっているかにみえる荻野の盗塁
■パテレ 2021年にも発生した荻野スタート動画。(ブログ書き上げ後に追加)
そんな荻野を見ていると、スタは石ノ森章太郎の漫画、『サイボーグ009』を思い出します。走り出す瞬間、きっと荻野は奥歯に仕込んだ加速装置をカチッと噛んでいるに違いない。加速装置を使った荻野が速すぎて、グラウンドの中はまるで時間が止まったようになってしまうんだ。そう、荻野はS Fの世界で走っている。
■パテレ 甲斐相手でも加速装置。
■パテレ 野手相手でも加速装置。
そういえば、009に島村ジョーという表の顔があるように、プレーをしていない時の荻野だってまるでスポーツ選手っぽくないじゃないか。いくつになってもジョーみたいにイケメンでスマートだし。話す時はニコニコおっとり穏やかだし。トクさんTVにゲストで出た時の正座姿なんて、まるで茶道の先生みたいな佇まい。ドラえもんを完璧に描く良きパパの顔まである。うっかりその表の顔の柔和さに騙されるけれど、ヤツは加速装置を持っている009。間違いない。
■トクサンTV 正座姿はお茶人のように端正だし。
■お子ちゃまと一緒にお絵描きする良きパパの顔まであるし。
若い韋駄天選手が躍動した去年も、はるか年長の009荻野は全く健在でした。荻野が衰えてひどく不調だ、なんてところは見た覚えがありません。ケガで弱っているか、途中でいなくなっちゃうだけです。無事でいるなら、若者にひけをとることは無いんです。
今年のオープン戦もバンバン打っている荻野。もうね、「シーズンを通して」とか見果てぬ夢は言いません。ただ、いつかは荻野に、CSや日本シリーズで思いきり時間を止めてみてほしい。そう願ってやまないスタであります。
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