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【オリックスvsヤクルト日本シリーズ】寅威君へ -重荷は背負える肩にだけ掛かる-【総合振返り②陰の部】

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2021年度日本シリーズオリックスvsヤクルト、振返りの後半です。
前回の陽に対して陰ですが、陰イコールマイナス部分ではない。
光が当たっている眩い所だけで世界は成り立っていないのです。
光の当たる所のそばには必ず陰があり、そこが世界の彩りを深くする。

 

プロでの大舞台どころか1軍完走さえ初めて、という選手が多いメンバーで、これまた初めての日本シリーズを戦ったオリックス。
たくさんの力不足が表に出ました。
選手層がまず薄かった。調子の波が激しくて成功が二度続かない選手が多かった。
応用力が中々利かず、かといって、固定した中での調整力も発揮しあぐねた。
ベンチの采配にもたくさんの迷いが出た。
後悔無く力を発揮できた者は、ほとんどいなかったでしょう。

 

その中で、一番の後悔を抱えたに違いない選手の1人、伏見寅威。
第6戦延長最終回表の二死からエラーしてしまい、結果として決勝点を与えた捕手が彼になったこと、決勝打の打者が、ヤクルトで一番好きな川端君だったこと。
最後の最後がこれですか? ちょっと勘弁してください、野球神様。

 

今後、このシリーズの話題では、必ずこのエラーが分岐点として取り上げられる。
それは仕方ない。プロなので。やってしまったことなので。
が、この分岐点までの多くの伏線が思いやられず、この1点だけで彼の今年の頑張りが顧みられなくなってしまうのはとても寂しい。

『奇跡も語る者がいなければ』という素晴らしい小説があります。
人々の周りには、誰かが語らなければ知られることもない小さな奇跡があることを教えてくれる小説です。

allreviews.jp

 

つい去年まで最下位定位置だったオリックスが日本シリーズにまで進出し、世間に感動される試合ができたことはサプライズとして光を浴びました。
そんなサプライズを起こしたたくさんの小さな奇跡の中には、間違いなく寅威の物語も含まれていることを知らないままの人がいるかもしれません。
1度のミスで封印されるかもしれないなら、知ってほしいなあと思う。

 

今年に入って、世の扱いはすっかり定番捕手になっている寅威。
ラオウ(杉本)の去年までの1軍通算ホームラン数の少なさはしばしば話題になるけれど、寅威が1軍で捕手として定着してからまだ1年半、ということはほぼ語られない。
ずーっと捕手でやっていたと思われていて、一昨年はケガのリハビリ、その前の数年はほぼコンバート状態だったことは忘れられている。
だから、去年の低迷時から急激に伸びた選手の中に、寅威を数える人もほぼいない。

 

やっと機会を与えられた去年から、まずは山﨑福也、田嶋大樹、宮城大弥といった左腕投手たちと組み、コツコツ実績を積み上げて来たのです。
中継ぎだった福也は先発を任されるようになり、ローテに入るようになり、不安定さもなんとか小さくして、このシリーズ第5戦、土壇場の1勝につなげました。

 

このシリーズは少し固くなったけど、シーズン最終盤で見事なピッチングでチームを支えた田嶋が、初完封で自信をつけたのも、去年寅威が捕手の時です。

 

そして、なんといっても宮城。
去年の最初の登板から寅威が受けました。

www.sponichi.co.jp


ところが今年、破竹の勢いだった前半戦とうってかわり、不調に陥った後半戦。
やっぱり支えたのは寅威でした。
インコース恐怖症が克服できずにいる宮城を、なんとかかんとかリードする。
精神的に引いてしまいそうになる所を言葉でも励ます。
一番苦しかった時の転機の試合は佐々木朗希との初対決だったかもしれません。

 

その試合は、この #みやとらバッテリー を見守ってきた者には忘れられない。
ヨレヨレになってる宮城が、不安気な表情でイニング間のキャッチボールをしていた時に寅威が近づいていって宮城を引き寄せると、何事か言い聞かせていました。
それが上の記事の、宮城の心を落ち着かせた言葉でしょう。
寄り添った大きな寅威と小さな宮城。
まるで親子のようでした。

※参考引用『パ・リーグTV』VOD動画3回裏5:05

pacificleague.com

 

 

19歳からやっと20歳になったばかりの、心も体もまだまだ不安定なプロ2年目。

そんな若者の先発ローテとしての1年間を支えることがいかほど大変だったか。
ここでの立ち直りで宮城が勝ち取った残りの2勝がもし2敗になっていたら。
オリックスの勝ち負けの差は4つ違っていました。
リーグ優勝もどう転んだかわからないほどの違いです。
宮城はこのシリーズでは、負けはしたものの見事な投球を披露。
異例の長さだった今年のプロ野球をとうとう最後まで駆け抜けました。
もちろん、支え通したのも寅威。

※いい場面を教えてくださっていたSNS

 

もう、なんというか、宮城のパパというよりママなんじゃないか。

日本シリーズの対戦相手のヤクルトは、左投手にめっぽう強い打線でした。
そこが不利と思われながら僅差の試合に持ち込めたのは、やはりオリックスの左投手の質が高かったからで、寅威と彼らの陰ながらの努力があったゆえです。

 

元々は打棒をかわれて1軍に上がり始めた寅威ですが、捕手定着し始めてからはちょっと湿りがちでした。
今年も前半最初は打てていましたが、中盤からは絶不調状態。
やはり突然優勝争いになって、打つ方には手が回らなくなったのでしょう。

 

それでも、この日本シリーズでは、バスターを決めるなど得点に絡めていた。
第5戦でのタイムリーヒットも、後から考えれば大きなヒットになっていました。

こうして迎えた極寒の中の第6戦。
緊張感に満ちた試合の展開だけが注視され、彼の苦労に目が向けられることもない。

 

息も真っ白な気温の中でも、出番を待ってぬくぬくしているわけにはいかない。
キャッチャーは裏でも仕事があれこれあるから。
現地報告SNSなどでは、そんな中でもなんとか手を温めようとする姿がありました。


出番は延長戦からになります。
1試合がまるまる終わるまで、冷え切る中で待っていたのと同じ間隔。
完璧な山本由伸が完璧な投球をした後に投げる投手を助けないといけない。
絶対に負けられない試合の中で。
これは全然簡単なことじゃないです。


隙を見せられない中で、全部違うタイプの5人のピッチャーを受ける。
技術もメンタル面も状態も、気の使い方が全員違う。
角度のある右の本格派、1ヶ月以上投げていない(しかも直前は打ち込まれた)コントロール命の大ベテラン左腕、シリーズ前回登板で打たれた右の変速サイドスロー、まだプロ3年目1軍実質稼働1年目のストレート派左腕、そして最後が、これも1軍活躍は今年後半からで、シリーズでも打たれている右のスライダーピッチャー。

 

最後の投手が一番調子の悪い状態での登板になった。
吉田凌は仕事人気質で強気ないい投手だけれど、今シリーズ起用が多くてマークされ、自信も少し揺らいでたし、スリムな投手で寒さの影響も大きかったか。
コントロールが定まらなかった、、、。

 

思えばこのシリーズの中で、ガルバスといい、ヒギンスといい、捕手としては「どーせーちゅーねん!」と言いたくなるよなノーコン状態の投手に当たったのも寅威。
捕手は元来損な役回りのポジションとはいえ、、、。
彼はキャリアスルーされる問題も含め、ちょっと損が回って来やすい気もする😅
まあとにかく、試合をずっと1人で受け持つのでもなく、途中からきつい状態に入るのも大変なことを理解する風潮はあってほしい。

第1戦からずっと続いた、オリックスの手痛いエラー。
外野手に出て、内野手に出て、連鎖になってしまった。
その流れに、第6戦の土のグラウンドと厳しい寒さが輪をかけます。
山本由伸が滑って転んだり、若い宗や、5戦までは安定していた紅林にもエラー。
由伸の気迫の頑張りでなんとか最小失点で押さえていたものの、「最後に致命的なエラーが出そう」な空気風船はパンパンに膨れ上がっていました。

 

こういう試合を決めるのはエラーかホームラン、なんてよく言います。
6戦にはホームランが出るムードはなかったのでね。
結局、エラーがオリックスに出る運命だったんじゃないかなあ、なんて思う。
経験の浅い選手みんなに回っていたエラー風船ボンバーが、最後の最後に寅威にも回ってきちゃったなあ、と。

 

それにしても、みんなエラーやミスをしてたのに、最後の最後でなぜ寅威だったのか。
1年十分貢献してきて、連携プレーなどもしっかりこなせてきた選手なのに。
酷な運命にも程がありませんか?
なかなか芽が出ず、やっと出てきたと思ったら大ケガをして、今度はこれ。
そんなことを考えていたら、ふと思いつきました。

 

やっぱり寅威は神様に見込まれてるんだな。
何度でも立ち上がれるんだよ、君は、って。

 

タロットカードにタワーというカードがありますね。
崩壊のカード。
でも、新しいものがやってくるために必要な崩壊で、実は明るい未来へのカード。
次のステップに行くためのきっかけで、激しいことが起きるタイプの人がいる。

 

次は、技術をもっと上げて、どんな状況でも耐えて、チームを勝たせる選手になるよ。
今回のことが印象に残る分、なんとなく上達したのじゃなくて、どれほど努力をしたのかをみんなが認めてくれるようになるよ。

 

転機のたびに激しいことが起きるのはしんどいと思うけど、そんな君にはね、『風と共に去りぬ』の主人公スカーレット・オハラが呟いた、有名な言葉を送りたい。

 

「重荷はそれを背負える肩にだけ掛かってくる」

きっとね、君の肩幅はそのために広くなったのだ。
不遇からも立ち上がり、大ケガからも立ち上がり、大失敗からも立ち上がる。
そんな姿を同じ境遇の人に見せられるような広い肩幅を贈られたんだ。

 

元々、寅威もものごとの陰に敏感で、陰に光を当てようとする繊細さがある。
CS優勝の日、みんなが決めた小田の方に駆け寄る中、1人で方向を変えて繋いだ安達の方に駆けて行った。
公式動画の企画で無票の子がいれば、必ずその子に投票してた。
陰に敏感な優しい人は、明るい方に一直線な人より、少し遠回りすることがある。
でも、一直線じゃない分、得るものも多いんだよね。

 

心配になるほど珍しくショックが露わだった寅威。
秋口頃から首筋も少し細くなって、大激戦のキツさが伝わってきた。
今はゆっくり癒してほしい。
君が今年、どんな小さな奇跡を起こしてきたか、周りはみんなわかってる。
遠くにいても、わかってくれている人もたくさんいる。

 

また元気な笑顔で、仲間を支えて頑張ろうね。
来年からは、もっとたくさんの小さな奇跡を起こそう。
今年1年、君は本当に頑張った。
寅威君、お疲れ様。

 

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