2年連続ヤクルトvsオリックスの対戦となった2022日本シリーズ。昨年は4勝2敗でヤクルト。今年は逆に、4勝2敗1分で、オリックスが日本一に。
今シリーズの出足はヤクルトが2勝1分のスタート。このまま一気に勝ち抜けるかも?と、世間に漂うヤクルト楽勝ムード。しかし、第4戦でオリックスがなんとか相手の勢いを止めると、じわじわと押し返し、まさかまさかの4連勝で大逆転。去年の雪辱を果たします。
他チームから見ると、離したはずなのに、気づけば差を詰められている。いつの間にか優位に立たれてる。少し前に行かれたと思ったら、もうその鼻の差が追いつけない。オリックスのこの流れ、パ・リーグのシーズンやCSと全く同じ。
このシリーズも、圧倒的に強いという印象は与えない試合内容。打線はなかなか長打が出ないし、残塁ばっかだし、非力さを感じさせることが多い。投手陣は抜きん出た力を持つけど、去年の日シリの未経験者が多かったりケガ人も出たりで決して全員が100%ではない。それなのに、ギリギリの場面になるとなぜか、誰かがチームを救う良いプレーをする。しかも、相手チームがなぜか自らこけてしまうようなツキもある。
脆さや弱さが満載のくせに、妙にしぶとい不思議なチーム。その不思議なしぶとさの元はなんだろう?、と考えた時、思いついたのはプライドの扱いの上手さ。チーム自体も選手個々も、プライドの飼い慣らし方がすごくこなれた感じがする。なんつうんですかね。いい意味で軽くて柔軟、そして意外に丈夫。素材として樹脂っぽい。
スポーツ選手のプライドって大事だけど、扱い難しいですよね。ガラスのように繊細で傷つきやすい。あるいは重くて硬くて融通が利かない。だから、若かったり経験不足だったりで未熟な選手のプライドは育てるのが大変だし、主軸や実績ある選手のプライドは何はさておき尊重しないといけなかったりする。
そこら辺を、中嶋監督体制になってからのオリはすごく現代的に上手く扱い、まだまだ未完成なチームを臨機応変に動かせている感じ。打順などの固定化が少ないから、選手は自分の中の調子や適性について色々な体験ができている。妙な責任感に押しつぶされることも少ない。ミスや不調でファーム落ちなどあっても何度もチャンスをもらえるので、ビクビクせずに自分を変える試行錯誤ができるし、失敗の落ち込みから浮上する方法も身に付いてくる。
※こういう体制や雰囲気を、CSの時の記事には "甘えられる雰囲気"って書きました。
そうこうするうちにいつの間にか、ちょっと軽めだけど柔軟で折れにくい樹脂型プライドが育ってきたのじゃないかしら。去年の日シリでは、ミスの度に目が泳ぎ、プレーが固くなって行ったオリックス。それが今年は、イタタ💦という失敗の直後に、すぐケロッとした顔で切り替える図太い選手たちに変身してた。
今回のシリーズ、最初はヤクルトバッテリーに手玉に取られていたけれど、いつの間にか勝利打点を上げてMVPを獲ったラオウ(杉本)。彼の記事は象徴的。
※2022.10.31デイリースポーツオンライン記事のラオウの手記より
ちょっと前までは、正尚が敬遠されると「なめんなよ」と感じていた。でも、冷静に考えると日本一の打者の後だから仕方ない。カッとなるのをやめて、打てば自分の打点が増える。「ありがとうございます」っていうふうに考えるようにした。
逆の例は、出足の調子の悪さからそのまま控えに回った福田周平。リーグ戦終盤に不調でファーム落ちし、そこから持ち直して最終盤の活躍を果たしてからのシリーズ。ベンチはさぞ悔しいかと思いきや、態度が暗くなることもなく、優勝時には両手のお茶を振り回して大はしゃぎ。
不調は誰にでもある。人間だもの。でも必ず浮上はできる。どこかできっと取り返せるし、運悪く不調な仲間がいたら、好調な誰かがカバーすればいい。今年のオリックスには、ダメな自分に凹まない、失敗する誰かを見限らない、そういうムードが満ちていた。それは軽くて柔軟で丈夫な樹脂型プライドが浸透したから。
一番変化が顕著だったのはブルペンの救援陣。今年は陽キャな選手が増えた上に、凹まない雰囲気が当たり前になって大活躍。このシリーズの第2戦、勝ち寸前の9回に代打ホームランで3点差を追い付かれてガックリした阿部翔太がその後相手クリンナップを抑え、後の中継ぎ投手も踏ん張って引き分けたのは、今年の打たれ強さ、失敗しても自分を見失わないタフなハートの象徴。中嶋監督が分岐点に挙げたのも、決して負け惜しみじゃないんよね。
思えば去年の日シリのオリックス、緊張で力が出せない選手、気持ちが折れる選手が多かった。ヤクルト側は今回の最初の3戦で、オリの選手たちがあまり変わっていないと思ってしまったのかも。特に2戦目の引分けからの第3戦に突き放す勝ち方ができたことが、錯覚を招いたのかも。
気持ちのせめぎ合いのところから自分達が一歩前に出た、相手の集中力が切れた、後は一気呵成に行けそうだ。油断とは言わないけれど、そんな高揚感を感じている気配があった。
ところが、樹脂型プライドを身につけた今年のオリ、全然切羽詰まっていなかった。まあ、徳俵までまだ1歩あるぐらいな感じ。ひっそりと相手の状態を見極め、自分達の戦力を整え直し、敗戦や痛い引分けの中から活路を見出して巻き返しに出る。
ヤクルトは、これまでなら第3戦のような試合の後は一気に押せていたはず。だけどこのシリーズ、ふと気がつけば押しているつもりの足元が前に進んでない。それどころか、少しずつ押し戻されていることに気がついて、あれ?と、戸惑いが出始めた感じ。そして、オリの選手たちの厚かましさが普通じゃない、と感じた時にはもう手遅れだったという感じ。
オリックスは、打順や登板順の変更、不調選手の調整などがシーズン中から頻繁だったので選手が慣れちゃってる。コロコロ変わる起用は普通だし、失敗に怯える必要もない。そういう心の持ち様が当たり前になって、変えられた選手がむくれたり、起用された選手が気負い過ぎることが激減。樹脂型プライドのチームにはいつの間にか、監督がやることにすんなり順応できるしぶとさが生まれてた。
対してヤクルトの高津監督は、何かを大きくいじってムードが変わることに対してすごく慎重。山田の打順を変えてホームランが出ると、そそくさと元に戻したりして、基本の形やスタイルを崩さない。特に主軸選手や外国人選手に対しては、彼らのプライドを傷つきやすい貴重品として、大事に丁寧に扱おうとしていた感じ。
中嶋監督と高津監督の傾向って、そういえば、オールスターゲームの時にもよく表れてたなー。ベンチの選手も入れ替わり立ち替わりガンガン使ったパの中嶋監督。1戦目と2戦目でかっちり選手を分けて固定的な起用法だったセの高津監督。
中嶋監督は、AS第2戦の9回に、パの代表的守護神3人を全員登板させたのが象徴的。重圧と美味しい場面の分担は公平にシェアし、登板順は選手たち同士で決めさせてお楽しみ感も出る。本当に、選手のプライドのハードルを下げるアイデアが豊富で上手いなあ、とその時から感じてた。対する高津監督の、選手のプライドを正攻法で貴重品として扱う感じもこのオールスターで滲み出てた、うん。
今回の日本シリーズでは、中嶋監督のプライドの扱い方が功を奏してリベンジ成功。それは、オリックスの方がヤクルトに比べて完成途上のチームだから故にできたことかも。もし次回も対戦すれば、今度は高津監督が選手の扱い方にひと工夫重ねてくること間違いなし。
2年かけて対戦成績は4勝4敗1分の両チーム。できたら奇数年対戦して決着をつけてほしい。
その時は、樹脂型と貴重品型と、対照的だった両チームの選手のプライドの育て方にまた注目したいと思います。
次の対戦、楽しみに待ちましょう。
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